抄録
【目的】
基本バランス能力テスト(Basic Balance Test;以下BBT)は望月らによって考案された、臨床的バランス指標である。BBTは座位・立位での姿勢保持、座位・立位での重心移動、立位でのステップ動作、端座位からの起立と着座などからなる25項目から構成されている。本研究の目的は、回復期脳卒中患者におけるBBTの臨床的有用性について検討し、病棟歩行自立を判断するBBT境界値を明らかにすることである。
【方法】
本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。対象者には事前に研究の方法・目的・倫理的配慮を十分説明し、書面にて同意を得た。対象は、当院に入院している脳卒中患者41名(男性26名、女性15名、平均年齢±標準偏差:69.9 ±12.5歳)であった。除外条件は、脳卒中再発の者、高次脳機能障害により動作指示を理解できない者、当院入院が1週間未満の者とした。方法は、対象者にBBTによるバランス能力の測定と屋外歩行自立から歩行不能まで8のレベルに区分した歩行能力を調査した。臨床的有用性については、記述統計によりBBTの平均値と標準偏差、歩行能力レベルによる合計点の推移、度数分布を検討した。カットオフポイントに関しては、BBTが病棟歩行自立度を判断するうえで有用な予測要因となるかROC曲線を求め、曲線下面積によって検討した。また、病棟歩行自立・非自立を判断する際の最も適したBBTの境界値を選択した。判別制度は、感度、偽陽性率、陽性適中率、正診率を用いた。
【結果】
BBT平均値±標準偏差は19.85±16.0となり、歩行能力レベルの増加に伴いBBT合計点も増加していたが、度数分布よりBBT合計が5点以下の者が全体の39.0%となった。ROC曲線での曲線下面積は0.97と有意であった(p<0.05)。境界値を25点とした場合、感度0.90、偽陽性0.05、陽性適中率0.94、正診率0.93となり、いずれも高い値を認めた。
【考察】
BBTの度数分布においては、床効果の傾向を示したことから、回復期脳卒中患者に適応するには対象者の重症度の考慮が必要であると考える。また、ROC曲線の曲線下面積において高値を示したことから病棟歩行自立度の予測能力としてBBTは有用であることが確認された。境界値を25点とした場合、高い精度で病棟歩行自立度を判別できたことから、25点が病棟歩行自立のカットオフ値となり得ることも示唆された。
【まとめ】
本研究は、BBTの臨床的有用性と境界値を明らかにした。本研究の結果は、臨床での病棟歩行自立度判断の一助として活用が可能であると考える。