抄録
【目的】
ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)は,筋活動電位及び足底の荷重分布,関節の角度情報を基に,股・膝関節のモーターを駆動してトルクをアシストする装着型の動作支援機器である.しかし,その効果についての報告は少なく,疾患別の症例報告もほとんどみられていない.
今回,重度の感覚障害と片麻痺を呈する維持期片麻痺患者に対して立位保持の改善に向けたHALを用いた訓練の有用性を検討した.
【方法】
症例は63歳男性,頭部外傷(被殻出血)による左片麻痺と麻痺側上下肢に重度の感覚障害を呈していた.また,受傷より約12年が経過しており,麻痺側の運動機能評価はBr-stage2-2-2,立位保持はなんとか独力で可能だが,麻痺側下肢による体重支持はほとんど行われていない.
介入内容は,HAL装着下における座位での下肢屈伸運動と立ち上がり練習(以下HAL練習)を4週間,週2回20分,合計8回実施した.
介入効果の評価は,HAL練習2回毎に三次元動作解析装置(VICON612),床反力計(AMTI社)を用いてHAL未装着での立位保持を計測した.測定項目は両下肢それぞれの床反力鉛直成分と前額面上での体幹傾斜角度とし,立位保持安定後の3秒間の平均値を算出した.介入効果の検討は,介入前を含め5回(計4週間分)の計測を行った.統計処理は対応のあるt検定を行い危険率は5%未満とした.
本研究を実施するにあたり,症例本人に対して口頭と書面による十分な説明を行い,同意を得た.なお,本研究は国際医療福祉大学倫理審査小委員会で了承された(11-154).
【結果】
介入効果として,床反力鉛直成分は麻痺側で有意に増加し,非麻痺側では有意に減少した.前額面上での体幹傾斜角度は,非麻痺側から麻痺側に大きくなる傾向がみられた.
【考察】
HALを使用した4週間のトレーニングによって,受傷から12年が経過した慢性期片麻痺者の麻痺側への荷重量を増加させることが出来た.荷重量は増加したが自重に抗するだけの筋出力が発揮できなかったため,下肢関節のアライメントに変化は見られなかった.また,体幹傾斜角度に有意差がみられなかったのは,長年の両側下肢による荷重経験の少なさから麻痺側への荷重を意識するあまりに上半身重心の位置調節に対して様々な運動戦略を用いたため再現性が乏しかったと考えられる.
【まとめ】
ロボットスーツHALによる関節運動のアシスト機能により麻痺側への荷重経験が増加し,慢性期片麻痺者の麻痺側への荷重を改善する傾向がみられた.