抄録
【目的】
ロボットスーツHAL福祉用(以下:HAL)右単脚を使用した歩行練習の介入効果を,シングルケース・スタディABA法を用い検証した.
【方法】
症例は60歳代男性.左中大脳動脈領域の心源性脳梗塞,発症30病日に当施設に入所.ヘルシンキ宣言に従って本症例に同意を得て行った.初期評価はBrunnstrom stage(以下Brs)で上肢・手指・下肢Ⅲ.端座位保持は可能.注意障害・失語症を有するも指示理解は可能.歩行はwalker caneとSLBにて3動作中等度介助で代償動作での振出しであった.最終評価は下肢Brs Ⅲと著変はなかったものの,T字杖とSLBにて2動作歩行が軽介助で可能となった. <BR>研究モデルはABA型デザインのABA´B´A´とした.Phase A・A´をベースライン期(以下BL期),Phase B・B´をHAL介入期とした.期間は発症37から68病日間でPhase Aは3日間,その他は各7日間の期間を設けた.介入期のPhase Bで4回とB´3回の計7回で各20分程度使用した.評価項目は10m歩行速度,麻痺側下肢最大荷重率(以下:麻痺側荷重率)とし,理学療法実施毎にwalker cane とT字杖の歩行速度を測定,各Phaseの最終時に麻痺側荷重率を測定した(Phase A・BはT字杖歩行速度を除外).測定は2回行ない最大値を採用した.麻痺側荷重率は体重計を用い麻痺側最大荷重を5秒間保持できた値を体重比で求めた.歩行速度は前日比の速度増減を百分率にて求め,各Phaseの平均値を算出した.介入方法はBL期に通常理学療法を実施した.介入期では股関節をCAC mode(自律制御:荷重をトリガーに振り出しを制御する)にて行い,二次変数を最小にするため,それ以外の練習内容はBL期と大きく変更しなかった.
【結果】
結果はPhase A→B→A´→B´→A´(T字杖A´→B´→A´)の順で示す.歩行速度増減率はwalker caneで92→108→97→112→102%,T字杖で110→113→101%,麻痺側荷重率は51→71→71→76→78%,となった.HAL前後の歩行速度増減はPhase Bのwalker caneで98%,Phase B´のwalker caneは111%,T字杖で122%であった.
【考察】
介入期間の歩行速度はPhase B・B´ともに向上を認め,同様に麻痺側荷重率も向上した.先行研究でもHAL使用により麻痺側荷重率は増加するといわれており同様の結果を得た.また本症例は重度片麻痺にも拘らず歩行速度および歩行能力は介入期で向上を認めた.ロボットの能動的アシストは脳賦活を促し可塑性を高めるといわれており,HALを用いた正常歩行に近似しリズム良く歩く練習は,壊れていた歩行様式の再学習させる呼び水として働いている可能性が考えられる.
【まとめ】
HALは片麻痺患者の歩行能力向上に働くことが示唆された.