抄録
【目的】
人工股関節全置換術(以下THA)後の患者満足度は手術による除痛効果に影響されると言われている。しかし術直後は疼痛が患者満足度に影響しうるが、経過と伴に影響する因子は変化すると考える。そこで、本研究の目的はTHA前後の主観的動作能力から生活動作満足度に関与する動作を明らかにすることである。
【方法】
対象は4病院で初回片側THA患者87名、平均年齢63.7±11歳である。方法は術前、退院時、術後2ヶ月時に生活動作満足度と主観的動作能力を問診にて調査した。生活動作満足度は視覚的尺度のVASを使用し、主観的動作能力は基本動作を含む15項目(寝返り、起き上がり、トイレ動作、坐位での仕事、立位での仕事、階段上り、階段下り、靴下はく、足爪切る、荷物を持つ、歩行、浴槽出入り、床に座る、床の物拾う、車乗り降り)、5段階尺度(5:楽にできる~1:できない)を使用した。検討方法は術前より退院時の生活動作満足度VASが向上した者を退院時満足群、低下した者を退院時不満足群、2ヶ月時においても同様に群分けし、各時期での2群間において各主観的動作項目を比較検討した。統計処理はMann-WhitneyのU検定(SPSS Ver16)を使用し有意水準は5%未満とした。尚、本研究は当院倫理委員会の承認を得た。
【結果】
各主観的動作能力の中央値(退院時満足群n=65vs退院時不満足群n=22)は寝返り(3.5vs3)起き上がり(4vs4)トイレ動作(3vs4)坐位での仕事(3vs3)立位での仕事(3vs3)階段上る(3vs3)階段下り(3vs3)靴下はく(3vs2.5)足爪切る(1vs2)荷物を持つ(2vs2)歩行(3vs3)浴槽出入り(2.5vs2)床に座る(2vs2)床の物を拾う(3vs3)車乗り降り(3vs3)で、全項目で2群間に有意差は認めなかった。同様に(2ヶ月時満足群n=25vs2ヶ月時不満足群n=52)、寝返り(4vs3)起き上がり(3vs3)トイレ動作(3vs4)坐位での仕事(4vs4)立位での仕事(3vs3)階段上る(2vs2)階段下り(3vs3)靴下はく(2vs2)足爪切る(2vs2)荷物を持つ(3vs3)歩行(3vs3)浴槽出入り(3vs3)床に座る(2vs2)床の物を拾う(2vs2)車乗り降り(3vs3)で、全項目で2群間に有意差は認めなかった。また退院時に満足の患者は全体の75%であり、そのうち術後2ヶ月で不満足へ転じた患者は57%であった。
【考察】
退院時満足度に影響する因子は動作能力のみで抽出するのは困難であり、除痛やその他の身体機能、各個人の多様性が示唆された。しかし、退院時に満足であったが術後2ヶ月で不満足となった患者が57%であることから術後2ヶ月の患者は退院後の生活で入院中には無かった動作困難感を感じていると考えられる。