抄録
【目的】
抗NMDA受容体脳炎は2007年にPennsylvania大学のDalmauらにより、提唱された自己免疫性脳炎である。若い女性に多発し、卵巣奇形腫を随伴する事が多く、感染を契機として自己免疫異常が生じて発症する。近年、報告が増えてきているがリハビリテーション(以下リハ)に対する先行研究は乏しい。今回当院にて奇形腫摘出術、免疫療法を実施し、早期にリハ開始となり、自宅退院となった症例を経験したので報告する。
【方法】
30代女性、大学卒業後は旅行代理店でマネージャーとして勤務中であり、既往歴及び家族歴に特記すべき所見はない。対象者に発表の趣旨と目的を説明し、書面にて同意を得た。
【結果】
4月頃より業務内容を忘れるようになり、効率が低下し始めた。徐々に情動不安定になり、A総合病院神経内科受診、頭部CTで異常所見なく心因性健忘が疑われた。翌日にB精神病院受診、急性一過性精神病、統合失調症疑いで医療保護入院となった。一週間加療したが改善認めず、当院転院となった。5病日に腹部造影CTで両側卵巣嚢腫、奇形腫を発見し、抗NMDA受容体脳炎と暫定診断となり、翌日、奇形腫摘出術を施行した。術後呼吸状態悪く、人工呼吸器管理となった。11病日より血漿交換療法を実施した。19病日よりROM練習と呼吸理学療法からリハ開始した。意識障害や唾液分泌過多、中枢性低換気、口部ジスキネジアがみられ、従命困難であった。32病日より大量免疫グロブリン療法を実施した。36病日に医師、看護師、臨床工学技士と連携し、人工呼吸器装着下で座位開始し、呼吸状態改善認めたため42病日に離脱となった。41病日に転院初日に採取した髄液から抗体が陽性であり、確定診断に至った。47病日に中等度介助で5mの歩行を行った。48病日にスピーチカニューレへ変更となり、HDS-R:28点であった。56病日Timed UP and Go test(以下TUG):13.1秒、10m歩行:11.2秒であった。翌日、当院回復期リハ病棟入棟となり、MMT上肢2~3、下肢4、FIM:116点であった。64病日に独歩自立となった。77病日に病棟内ADL自立、最終MMT5、TUG:6.3秒、10m歩行:6.2秒、FIM:126点となり、79病日に神経学的後遺症を残さず自宅退院となった。仕事も復帰予定である。
【考察】
早期から呼吸理学療法を中心に介入し、他職種と連携する事で誤嚥性肺炎等の重篤な合併症を起こさず、79病日で自宅退院の帰結を得た。他の脳炎と比べ、改善する可能性が高い事から重度の障害であっても、合併症や廃用症候群を予防する為、早期からの介入が有効であったと考える。
【まとめ】
抗NMDA受容体脳炎患者に対し、早期からのリハ介入により、神経学的後遺症を残さずに自宅退院となった。