抄録
【はじめに】
平成22年4月、セラピストによる喀痰の吸引が認可され、当院では同年7月より病棟において喀痰吸引を開始した。当院は3次救急指定病院であり、重症頭部外傷、脳血管疾患、多発外傷などの気管切開患者が多く、早期からのリハビリテーションが要求される。以前、セラピストによる吸引は病棟のみに限られており、リハビリテーション室(以下リハ室)での治療中に吸引が必要となれば、病室に戻らざるをえず、円滑な治療プログラムが実施できない現状があった。
【目的】
日本理学療法士協会は喀痰吸引に関する基本姿勢の中で、リハ室に吸引装置を設置する必要性について述べており、当院リハ室には緊急時に対応するため、以前よりバッテリー式携帯型吸引器が設置されていた。今回、セラピストの吸引技術の向上もあり、その吸引器を用いてリハ室での吸引を開始したので報告する。
【方法】
平成22年10月よりリハ室における吸引準備として、バッテリー式携帯型吸引器の使用方法・手順、管理、使用後の消毒・操作についてマニュアルを作成した。感染対策として吸引を実施する際は他患者に配慮し、実施後は周囲の訓練機器の消毒を徹底した。同年11月よりリハ室での喀痰吸引を開始した。
【説明と同意】
本発表について倫理上の配慮が必要となる内容は含まれていない。
【結果】
平成22年11月から平成23年11月までの吸引件数は39件で、月平均3.3±3件であった。リハ室での喀痰吸引に伴うインシデント・アクシデントは0件であった。
【考察】
リハ室で吸引が可能になったことにより、治療中に吸引を要する患者でも、身体機能にあった治療プログラムを実施することができた。実際の吸引件数は3件と多くはなかったが、セラピストにとっていざというときに吸引が行える治療環境は、安心感が大きかった。
インシデントの報告はなかったが、リハ室での吸引は車いすやtilt table上など不安定な姿勢で実施することが多く、咳嗽反射や体動による転倒・転落のリスクが高いと感じた。その際は2人態勢で行うことが望ましいと考える。
病棟同様、吸引の配管を整備した場合、吸引場所は一か所に限られるが、この携帯型吸引器はあらゆる場所で使用が可能であり、リハ室の環境に適していたといえる。また、一部部品が使い捨てのためコストが生じるが、吸引器使用環境からみても現状が妥当であると推察する。
急性期病院において、安全な環境下で早期から円滑なプログラムを実施することは使命であり、セラピストによるリハ室での吸引は急変時や早期離床の点からみても必要性が高いことが示唆された。