主催: 公益社団法人日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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【目的】立位での右上肢挙上は、先行随伴性姿勢調節(APAs)として頭上から見て時計回りの垂直トルク(Tz)が起こる。また、立位での認知課題は姿勢制御の自動性を高めバランスが向上する。この二重課題下で反応課題を行うと、主動作は遅れるがAPAs はさほど影響を受けないと言われるが、詳細は不明である。本研究の目的は、Tz を用いて、立位時の暗算課題がAPAs と主動作にどう影響するか検討することである。
【方法】健常人11 名(26.2±4.8 歳)は、安静立位の対照条件(C)、音刺激を合図に右上肢挙上の反応課題を行う単一課題条件(S)、暗算課題中に反応課題を行う二重課題条件(D)の3条件下で立位を保持した。足圧中心(COP)とTz は床反力計で、上肢の運動は角速度センサーで計測した。反応課題前のCOP 分散と、反応課題に伴うTz 開始時間と最大Tz、それに至るまでのスロープ、上肢挙上開始時間とその最大角速度を、α=0.05 で条件間比較した。なお、本研究は倫理委員会の承認を得た上で、被験者に同意署名を得た。
【結果】立位時のCOP 分散はl6.4mm<SUP>2</SUP>、13.3mm<SUP>2</SUP>、8.6mm<SUP>2</SUP>であり、CS と比較してD で減少した。Tz 開始と上肢開始はD でS より遅れたが、Tz 開始から上肢開始までの時間もD の方がS より長かった(上肢開始-Tz 開始=65.8msec と113.2msec)。最大Tz にSD 間で差はなかったが、Tz スロープはS よりD で減少した(24.5Nmm/msec と18.9Nmm/msec)。
【考察】APAs はフィードフォーワード的制御でありながら、暗算課題で有意に遅れ、またTz スロープも減少した。暗算課題が、静的バランスは向上させるが、動的バランスには不利に働くことが示唆され、臨床の転倒予防訓練などへの応用が考えられる。