主催: 公益社団法人日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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【目的】車いす操作の経験差が空間認知能力に影響するかを検証するため,手動車いすで障害物の間を通過できる幅の知覚と経験差の関係を明らかにすることが目的である.
【方法】対象は視力1.0 以上の健常成人32 名とし,車いす操作経験の少ない群16 名と多い群16 名に分けた.倫理的配慮として,対象者に研究の目的・方法・個人情報の取り扱いについて事前に説明し,同意を得た上で研究を実施した.さらに倫理委員会の承認を受けた.使用機器は,普通型車いすを用いるとともに,通過幅を設定するため手動式パネルを使用した.課題は車いすの後方に立ち,5m 先の様々な幅を観察し障害物に接触せずに通過できるかを口頭にて答える(課題1).その後,通過の可否を口頭にて答えた後にハンドルを把持し実際に通過できるか体験する(課題2).いずれの課題も通過幅は車いす幅(62.5 cm)を基準とし,±7.5cm(2.5 cm 間隔)の7 段階をランダムに
7 試行実施する. 統計処理は,各課題の試行順とcm ごとのそれぞれの誤答数を比較するため,カイ二乗検定で統計処理を行った.
【結果】車いす操作経験の少ない群と多い群に有意差は認められなかった.また全体的な傾向として,車いす幅を実際よりも大きく見積もることが明らかとなった.
【考察】本研究により,設定条件下では経験差による結果の違いは得られなかったが,車いす幅を実際よりも大きく見積もる傾向が明らかとなった.その要因として,本研究の比較対象は操作経験の差が数年であったことからが空間認知能力に影響を与えるほどではなかったと考えられる.また,課題が容易であったことから,本研究の結果は経験ではなく課題に依存した傾向になったと考えられる.さらに,今回は他者を乗せたことを想定した車いすを操作するという面から,危険回避の心理がより働き車いす幅を実際よりも大きく見積もったと示唆された.