主催: 公益社団法人日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
p. 253-
【目的】大腿骨頸部骨折患者は多くの場合手術が適応になり、その後に理学療法を実施するが、受傷前の状態に到達しないことも多い。また認知症を併せ持つ患者が多く、経過に難渋する機会もしばしば経験する。今回の調査では、ADL に関わる要素について受傷前後での違いと認知症の影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】当院整形外科で手術を受け、平成27 年1 月より一年間に理学療法の処方を受けた患者109 名を対象とした。受傷前と退院時における歩行レベル、ADL 自立度、そして生活環境を調査した。また認知症の影響についても検討した。
【結果】患者の歩行レベルを独歩、杖歩行、歩行器歩行、車椅子使用に分類したところ、受傷前に多かった独歩と杖歩行は退院時には減少し、反対に歩行器歩行と車椅子使用が増加した。ADL 自立度は受傷前に多かった自立と一部介助が退院時に減少し、半介助と介助が増加した。生活環境では受傷前に多かった自宅が退院時に減少し、福祉施設と療養型病院が増加した。また認知症を併せ持つ患者は、歩行レベルの改善度がそうでない患者に比較し、下がっている傾向がみられた。
【考察】今回の調査結果から大腿骨頸部骨折を受傷し、手術と理学療法を実施した後においても、受傷前より歩行レベルとADL 自立度が下がってしまう傾向があることが確認できた。これらは自宅に復帰できない要素になっているものと考えられた。また認知症の患者は歩行レベルの改善がより小さいことから、歩行を再獲得する予後にも影響することが考えられた。
【まとめ】大腿骨頸部骨折を受傷した患者は、退院時に受傷前の歩行レベルとAD L 自立度に到達しない者が多い。
また認知症の患者は退院時における歩行の改善が良くないことから、理学療法士は患者のADL を保つために、より丁寧な指導と反復練習が重要になるのではないかと思われた。