主催: 公益社団法人日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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【はじめに】腰椎変性疾患においてL4/5,L5/S 椎間は障害されやすい部位である.L5 神経根は前脛骨筋,中殿筋をS1 神経根は下腿三頭筋,大殿筋を優位に支配するとされており,その神経根症状により歩行障害を呈することは少なくない.今回S1 神経根障害による筋力低下と歩行の関係について検討を行うため単椎間のヘルニア症例を対象に検討を行った. 【対象と方法】対象は2013.3~16.3 に術前評価を実施したL4/5 椎間板ヘルニア47 例中,前脛骨筋または中殿筋に低下(MMT3 以下)が見られた8 例(以下L5 群 48.9±13.4 歳 男6 例 女2 例),L5/S 椎間板ヘルニア43 例中,下腿三頭筋または大殿筋に低下が見られた11 例(以下S1 群 42.4±13.8 歳 男9 例 女2 例)とした.両領域に筋力低下を呈する症例は除外した.検討項目はTimed Up and Go Test(以下TUG),10m 最大歩行速度(以下歩行速度),10m 歩行歩数(以下歩数),歩行率,階段昇降時の手すり使用の有無とした.比較にはt 検定を用いた(有意水準5%).尚,本研究は当院の倫理委員会の承認を得て行った.
【結果】L5 群,S1 群でTUG は8.34±1.20,12.93±4.96 秒,歩行速度は1.60±0.26,1.26±0.41m/s,歩数は
14.25±1.67,18.72±5.83 歩であり有意差を認めた.歩行率は2.27±0.32,2.16±0.35 歩/s と有意差を認めなかった.階段昇降時手すり使用の割合はL5 群37.5%,S1 群62.5%であった.
【考察】S1 群はL5 群と比較しTUG,歩行速度は低下,歩数は増加,階段昇降時に手すり使用者が多く,S1 神経根障害による下腿三頭筋,大殿筋の筋力低下は前方推進力,バランス能力,敏捷性,日常生活機能の低下に関与することが示唆された.S1 神経根障害を含む症例は歩行自立の可否だけでなく,応用的な動作にも注意して評価する必要があると考える.