関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会
セッションID: S-017
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シンポジウム3 運動器系理学療法が果たすべき役割
臨床現場から
秋吉 直樹
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抄録

 私はこれまではこれまでスポーツに起因した運動器疾患に対する理学療法に従事してきたが、近年、理学療法士の役割は、ベッド上やリハビリテーション室内で確認できる機能や能力の課題に目を向けるだけでなく、ゴール設定やプランニング、他職種との連携、傷害統計、競技特性の理解など様々な知識や技術が求められている。その背景には、これまで医療施設とスポーツ現場のギャップ、医療従事者と指導者・保護者とのギャップなど様々な問題を抱えてきたことなどが挙げられる。今回のシンポジウムでは、これらの課題を解決するための糸口を以下の項目に焦点を当てて解説する。

1) 時間だけを考慮した競技復帰→パフォーマンス基準に基づいた競技復帰

 スポーツに起因した運動器の傷害に対してリハビリテーションを実施する場合、医療施設内では疼痛や動作の改善がみられてもスポーツ競技の現場に復帰した後に再発することも少なくない。特にサッカーで多くみられるハムストリングス肉離れや前十字靭帯損傷、コンタクトスポーツに多い脳震盪などは再発が多いことが問題となっている。これらの再発を予防するためには、“時間だけを考慮した競技復帰”から“パフォーマンス基準に基づいた競技復帰”が重要である。リハビリテーションの段階において、ランニングを始める基準、練習に合流する基準、試合に復帰する基準などを選手・指導者などと共有しリハビリテーションを進めていく必要がある。この基準を作成するうえでは、傷害の受傷機転などメカニズムの理解、競技に必要な体力面の理解、栄養や睡眠など体調面の理解、指導者やチーム状況などの理解など、多岐にわたる情報を集約する必要がある。

2)Rehabilitation → Prevention(リハビリテーションから予防へ)

 運動器系理学療法では、リハビリテーションだけではなく傷害の予防が注目されており、野球肘検診、Jones骨折検診、足関節検診など全国で展開されている。傷害の予防の4ステップ(Mechelen 1985)では、外傷・障害統計→原因究明→予防介入→効果検証のステップを踏む必要があると言われている。 UEFAやNCAAなど海外では大規模な外傷・障害統計が行われているが、日本ではまだ十分とは言えないのが現状である。したがって、各競技や年代別でどのような傷害がどのくらいの頻度で発生しているのかは不明である。また検診などの事業で陽性であった対象者に対して二次検診や介入が実施されているが、偽陰性が多いことも課題の1つであり、検診やスクリーニングテストの意義を再考する必要もあると言われている(Bahr 2016)。傷害の要因は多因子であり、1つの要因だけでは解決できないことが多いため、選手を取り巻くスタッフが協働して取り組んでいく必要がある。

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© 2019 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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