主催: 公益社団法人日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
会議名: 第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会
開催日: 2019/10/26 - 2019/10/27
【目的】小脳性運動失調者はバランス機能障害を特徴とすることから転倒リスク及び予防が考慮すべき問題となっている.転倒リスクの高い歩行開始において予測的姿勢制御(APAs)が重要な役割を果たしているが、小脳性運動失調症者を対象とした歩行開始におけるAPAs の運動学的問題を明らかにした報告はない.本研究は歩行開始時の足圧中心(COP)軌跡と下肢の筋活動をパラメータとして小脳性運動失調者のAPAs特異性を検証した.
【方法】対象は健常高齢者3名(平均69.6±3.1歳)と小脳性運動失調者3名(平均69.3±9.6歳)とした.装置は重心動揺計(ユニメックス社),表面筋電図計(NORAXON),簡易光刺激装置を使用した.表面筋電図は左右のヒラメ筋,前脛骨筋,中殿筋の6筋を導出筋とした.歩行開始課題中のCOP軌跡と筋活動を同期記録し,課題遂行合図(光合図)から各筋の活動及び抑制開始迄の潜時を計測した.左右3回ずつ計6回の計測を行い,光合図で時間軸を正規化し各筋の筋活動の潜時を安静時平均活動±2SDを筋活動の変化点として解析した.統計処理は各筋の潜時とCOP移動量をT検定にて検証し,有意水準は5%とした.
【倫理的配慮】施設長の承認の下,対象者に説明と同意を得て実施した.
【結果】健常高齢者ではCOPの動き始めに先行して両側前脛骨筋と遊脚側中殿筋の活動と両側ヒラメ筋と立脚側中殿筋の抑制を認めた.小脳性運動失調者は両側の前脛骨筋に筋活動の潜時の遅延がみられた(p<0.05).COP は後方への移動量の減少と遊脚側COP後方ピーク時点からの支持側への前方の移動量が減少した(p<0.05).
【まとめ】健常高齢者において身体重心を移動させるために足部筋,中臀筋が相反して作用していることが明らかとなった.小脳性運動失調者は前脛骨筋の筋活動の潜時の遅延と前方へのCOP移動量の減少が認められ,運動の変換の障害,重心移動の困難さという小脳性運動失調者におけるAPAsの特異性を示唆するものと思われた.