抄録
【はじめに】
脳卒中分野で課題指向型アプローチ(以下TOA)の効果は多数報告
されているが,整形外科分野での報告は少ない.腰椎固定術後患
者に対して禁止動作を遵守した調理動作を獲得するためにTOAを
実施し,退院後早期に調理動作自立に至った症例を報告する.
【症例紹介】
70歳台男性.20年程前から腰痛,2年程前から両下肢痛・痺れあり.
腰部脊柱管狭窄症に対しX 日に腰椎側方進入椎体間固定術(L2~
L5)施行.入院予定期間は約4週間.後療法は約4ヶ月ダーメンコル
セット装着下,腰部安静保持.独居のため退院時に調理動作自立の
希望あり.
【術前評価】
(1)JOAscore10/29点,(2)6分間歩行距離140m,(3)Timed
Up & Go test11.2秒,(4)Functional Independence Measure
124/126点
【経過・介入】
X+1日より通常理学療法(筋力増強運動,ストレッチング,動作練
習等)を行い,X+15日でヒップヒンジでの中腰動作は獲得したが,
模擬的調理動作練習において腰部屈曲の危険性がみられた.そこで
X+26日より1日20分,TOAにて皿洗いやシンク下の収納棚の操作
などヒップヒンジによる下方リーチ動作練習を行った.その結果,
禁止動作を遵守した調理動作を獲得でき,X+33日に自宅退院
した.外来にて調理動作が自立できていることを確認した.
【最終評価】
(1)16/29点,(2)270m,(3)10.8秒,(4)121/126点
【考察】
本症例は,通常理学療法により身体機能向上がみられ基本的な
ADLを再獲得し,ヒップヒンジの運動学習もなされていたが,調理
動作の環境下では実施困難だった.TOAは環境適応能力向上に有効
とされており,本症例においても有効だった.脳卒中分野では環境
適応能力向上に2週間を要したとの先行研究があるが,本症例では
1週間の早期で調理動作を獲得できた.その理由として脳血管障害
がなく上肢運動機能や下肢の大関節機能が保たれ腰椎機能の代償
が可能であり,調理動作を行うための運動機能が備わっていたこと
が考えられた.
【倫理的配慮,説明と同意】
今回の発表に際して,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,
個人が特定されるような情報を開示しないことを本人に説明し,
同意を得た.