抄録
【はじめに】
今回,右大腿骨顆部骨折(AO 分類TypeC2)を呈し観血的整復
固定術(以下ORIF)を施行した一症例について超音波画像診断
装置(以下エコー)を用いて評価・介入を行った.関節可動域(以下
ROM)を中心にその経過を報告する.
【症例情報】
50歳台男性.解体業.仕事中,右大腿部に鉄骨が落下.当院に来院
し,同日創外固定術施行.X+11日後にORIF 施行.術中ROMは
屈曲110~120°.後療法は早期よりROMex,免荷歩行可.術後
10週よりtoe touch,以降1週毎に荷重量を増加し,術後14週で
FWB であった.
【経過及び治療内容】
術後5日よりリハビリ開始.開始時は右膝関節周囲の腫脹・熱感著明,
右膝ROM 屈曲45°,伸展-5°. 膝蓋骨・膝蓋上嚢・大腿骨前脂肪体
(以下PFP)の徒手治療,患部外運動,車椅子乗車開始.術後3週
は右膝ROM屈曲90°,伸展0°,免荷松葉杖歩行可能.創部が落ち
着いたためエコー評価開始.クアドセッティング時のPFPの動きは
乏しく,膝蓋下脂肪体・外側広筋・中間広筋はcompression 時の
硬さを認めた.内側広筋は比較的柔軟性が保たれ,内外側膝蓋支帯
の滑走も良好であった.上記の硬さを認めた組織のストレッチを
エコーで適宜確認した.術後10週は疼痛なくtoe touch可能,右膝
ROM 屈曲125°, 伸展0°.エコー所見の改善も認めた.術後19週
で膝伸展筋力の患健比25%,独歩可能となり自宅退院.外来時は
右膝ROM屈曲140°,伸展0°,膝伸展筋力は患健比75%で職業復帰
も果たした.
【考察】
本症例はエコー所見で特に中間広筋の硬さを認め,膝蓋支帯の滑走
性は良好であったため,筋実質部の柔軟性低下がROM制限と考えた.
また,林はPFP の膝関節拘縮への関与を報告しており,エコーを
ガイドにPFP の操作を行ったことでROM 改善に繋がった.坂本
らは大腿骨顆部骨折AO 分類Type C 症例の平均膝ROM は屈曲
110°伸展-6.7°と報告している.骨折・手術所見にエコー評価を
併せ,制限因子を明確にしたことで,良好な結果が得られた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本症例に症例検討・報告についての説明を口頭及び書面で行い同意
を得た.