抄録
【はじめに】
短下肢装具の効果として,片麻痺患者において立脚中期から立脚
後期に下腿及び身体を前方回転させることに対して恐怖心がある
と背屈制動機構を付加することで恐怖心が軽減し,膝折れを防
止し身体の前方移動が可能になるとされている(Lehman et al,
1987).今回,大腿切断症例において非切断側の前方への重心
移動に恐怖心があり,歩行速度の低下や歩行の動揺性の増加を認
めた.そのため,非切断側に対して短下肢装具を使用し,良好な
結果が得られたためその有用性について検討した.
【症例紹介,評価】
症例は40歳代男性であり,X日に左骨髄炎,左下腿ガス壊疽と診
断.X +1日に左大腿切断を施行し,X +36日に歩行の獲得に向
けて当院へ転院となり,X +86日に仮義足を作成した.X +129
日に3軸加速度計(AYUMI EYE,早稲田エルダリーヘルス事業団
製)にて歩行計測をし,片側ロフストランド杖を用いた歩行速度が
0.39m/s,上下方向加速度が1.1g,Root Mean Square(以下,
RMS)が8.9であった. 歩行観察では非切断側の立脚中期から立
脚終期にかけて膝関節屈曲位を認めた.患者からは前方重心移動
の恐怖心が聞かれた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本症例はヘルシンキ宣言に基づいて実施し,対象者に十分趣旨を
説明し同意を得た.
【介入内容と結果】
非切断側に短下肢装具(以下,AFO)をX+129日から使用し,徐々
に膝関節伸展位で前方に体重を移動することが可能となったため,
AFOを小型に変更しX+157日まで実施した.また歩行練習では3
軸加速度計を使用し,結果をフィードバックしながら練習を行っ
た.その結果,X+157日の片ロフストランド杖歩行では歩行速度
は0.58m/s,上下方向加速度は0.4g,RMSは2.9となった.歩
行観察では,非切断側の立脚中期から終期にかけて膝関節屈曲角
度の減少を認めた.
【考察】
非切断側に対してAFOを使用し,非切断側の立脚中期から終期
での膝屈曲位が改善した.その結果,上下加速度が1.1から0.4,
RMSが8.9から2.9と減少を認めた.また歩行速度が0.39m/sか
ら0.58m/sと向上を認めた.これらの結果からAFO使用により立
脚中期から立脚終期の膝関節屈曲位を抑制した動作や筋収縮が学
習され,上下加速度やRMSが減少し,歩行の動揺性の低下と速
度の向上を図れたと考えられる.したがって,大腿切断患者の非
切断側に対する短下肢装具の使用は歩行の動揺性の改善や歩行
速度の向上に有用な可能性が示唆されたと考えられる.