抄録
【はじめに,目的】
ベッドからの起き上がり動作は臥位から立ち上がりや歩行へと移
行する際に必須の動作である.この動作に関する研究は定性的な
ものが多く,定量的指標を用いた分析は十分とは言えない.本研
究では,3次元動作解析システムを用いてベッドからの起き上がり
動作中の関節運動を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は若年健常男性7名(20.3±0.5 歳.平均値±標準偏差)とした.
動作は,ベッド上仰臥位からベッド右側に足をおろした端坐位まで
変換するものとした.起き上がり方法や速度は被験者が最も快適
に感じるものとし,動作は3回実施した.
3次元動作解析システム(Mac3D)を用いて関節角度を測定した.
動作時間を100%に正規化し,動作時間5%ごとの関節角度を同定
した.各被験者3回の試技のデータ平均値を代表値とした.被験
者7名の関節角度の平均値と標準偏差を算出した.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は著者が所属する施設の研究倫理審査委員会にて承認を受
けた(申請番号2022-07).ヘルシンキ宣言ならびに人を対象とす
る医学系研究に関する倫理指針に則って本研究を実施した.対象
者には書面と口頭で研究について説明し,同意書を得た.
【結果】
頭頸部は,屈曲が動作開始30%時点で最大値32.0°,右回旋が
50%時点で最大値30.2°を示した.体幹は,屈曲が動作開始60%
時点で最大値51.2°を示した.回旋と側屈はわずかであった.左肩
関節は,屈曲が動作開始45%時点で最大値17.1°,外転が85%時
点で最大値13.5°を示した.右肩関節の屈伸は,動作開始40%時
点で最大伸展25.9°を示し,その後は屈曲運動に変わり,85%時
点で最大屈曲16.5°を示した.右肩関節の外転は,80%時点で最
大値27.0°を示した.左股関節の屈曲は,動作開始20%から屈曲
運動が生じ,100%時点で最大値62.4°を示した.右股関節の屈
曲についてもほぼ同様であった.
【考察】
ベッドからの起き上がり動作における若年健常者の関節運動に関
する知見が得られた.各運動方向の最大値程度の関節可動域を有
していることが,ベッドからの起き上がり動作を円滑に実施するた
めに必要になると考えられる.本研究の知見は,関節可動域の目
標値を設定する際の一つの参考資料として用いることができると
考える.