【目的】認知症患者では認知機能や身体機能の低下,身体拘束や多剤併用による薬剤副作用など様々な因子によって行動制限が生じる.これらの因子は運動機能や日常生活活動(Activities of Daily Living ; 以下,ADL)に影響を及ぼすが,歩行自立度に関連する因子は未だ明らかではない.本研究では認知症と臨床診断された入院患者における歩行自立に関連する因子を明らかにすることである.
【方法】対象者は認知症患者で精神科病棟に入院して理学療法が行われた98例で,退院時の病棟歩行自立度に基づいて歩行自立群63例と歩行非自立群35例の2群に分けて解析した.従属変数を歩行自立度,独立変数を運動機能やADLに影響を及ぼす因子として多重ロジスティック回帰分析を行った.
【結果】歩行自立群はShort Physical Performance Battery(以下,SPPB),抗認知症薬の服薬率が非自立群と比較して有意に高かった(p<0.05).多重ロジスティック回帰分析の結果,Mini-Mental State Examination,SPPB,抗認知症薬,睡眠薬,抗精神病薬,抗うつ薬,抗パーキンソン病薬の合計薬剤数が有意に関連する因子として抽出された.
【結語】認知症の入院患者において歩行自立度を評価する際は,認知機能,下肢機能,服薬状況を把握する重要性が示唆された.