医療政策は,政治過程の産物である。他の政策と同等以上に,政治的アクターは多くかつその利害関係は非常に複雑であり,全てのアクターが満足するような医療政策を形成するのは容易ではない。政治情勢における利害調整にふりまわされ,誰のためか何のためか不明瞭なまま政策が局所的に形成されることもある。だが,我々の生命に少なからず影響を与える医療政策が利害調整を中心とした政治情勢によってすべてが決まってよいのであろうか。医療政策として何をすべきであるか(何をすべきでないのか),何を優先問題とすべきかなど,制度全体を貫く価値規範となるべき理念が必要ではないだろうか。
以上を問題意識として,本稿では,1)医療政策における価値規範となるべき理念を論じる意義は何か,価値規範となる理念の論拠をどこに求めるか,2)価値規範から想定される医療政策のあり方について検討を行う。