公共政策研究
Online ISSN : 2434-5180
Print ISSN : 2186-5868
13 巻
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
巻頭言
特集 公共政策と価値・規範
  • 佐野 亘
    2013 年13 巻 p. 6
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー
  • 宇佐美 誠
    2013 年13 巻 p. 7-19
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    わが国では,公共政策に内在する価値に関する規範的研究が,最近約20年間に一部の研究者によって精力的に推進されてきた。しかし,大半の政策研究者や政策実務家の間では,価値研究の重要性がいまだ広く認識されていないと思われる。こうした現状に一石を投じるべく,本稿は具体的な政策問題を取り上げた上で,現行政策や代替政策案の十全な評価のためには,これらの背後にある価値理論の検討が不可欠であると示すことを試みる。政策問題としては,政治哲学・道徳哲学で近時急速に研究が進展しつつある気候の正義という新たな研究主題群を取り上げ,なかでも地球規模での二酸化炭素排出権の分配問題に焦点を合わせる。

    初めに,本稿の主題を設定した上で,気候の正義の基本構図を概観する(1.)。次に,二酸化炭素排出削減の国際的政策の根幹をなす過去基準説(2.)と,主要な代替政策案である平等排出説(3.)について,その各々を正当化する価値理論に対して批判的検討を加える。この検討を通じて,両説がそれぞれ種々の難点を抱えることが明らかとなろう。こうした否定的知見を踏まえて,別の政策案である基底的ニーズ説の価値理論を発展させる(4.)。最後に,政策・政策案を評価するためには,これらの背後にある価値理論の検討が不可欠だと指摘する(5.)。

  • 伊藤 恭彦
    2013 年13 巻 p. 20-31
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    公共政策は規範や価値に関する思考と深い関係にある。その点で価値や規範を正面から扱う政治哲学は公共政策学において重要な役割を果たせそうである。しかし,現実の公共政策学では規範や価値の問題はどちらかというと「周辺的」な扱いを受けている。

    本稿では規範や価値を扱う政治哲学が,公共政策学と現実の政策過程に関与するアクターにいかなる貢献ができるのかを検討し,政治哲学と公共政策学を架橋する試みを行った。政治哲学的思考と政策学的思考は多くの点で質を異にするが,両者の違いを自覚するならば,政治哲学は「民主主義の下働き」としての役割を政策過程で演じることができる。その役割は政策アクターや政策を考えている有権者に「道徳の羅針盤」を提供することである。「道徳の羅針盤」のうち,本稿ではアジェンダ選定における「規範的な認識のフレームワーク」と政策形成における「価値コミットメント」の明示化を例示的に検討した。

    政治哲学は現実政治や政策過程から距離をおいて,政策理念や政策規範を構想することができる。他方で,政治哲学は政策過程に寄り添ったり,政策過程を振り返ったりする中で,政策に関する価値と規範を明らかにし,政策的思考を豊かにしていくことに貢献できる。

  • 堀 真奈美
    2013 年13 巻 p. 32-45
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    医療政策は,政治過程の産物である。他の政策と同等以上に,政治的アクターは多くかつその利害関係は非常に複雑であり,全てのアクターが満足するような医療政策を形成するのは容易ではない。政治情勢における利害調整にふりまわされ,誰のためか何のためか不明瞭なまま政策が局所的に形成されることもある。だが,我々の生命に少なからず影響を与える医療政策が利害調整を中心とした政治情勢によってすべてが決まってよいのであろうか。医療政策として何をすべきであるか(何をすべきでないのか),何を優先問題とすべきかなど,制度全体を貫く価値規範となるべき理念が必要ではないだろうか。

    以上を問題意識として,本稿では,1)医療政策における価値規範となるべき理念を論じる意義は何か,価値規範となる理念の論拠をどこに求めるか,2)価値規範から想定される医療政策のあり方について検討を行う。

  • 小松崎 俊作
    2013 年13 巻 p. 46-64
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    2004年4月から実施された新医師臨床研修制度は,地方や特定診療科における医師不足を引き起こしたといった批判がなされる一方,政策目標そのものについては擁護する見解も見られ,有効な改善策は見いだされていない。本研究では,より「適切な」政策をデザインするための情報を提供することを目指して,Frank Fischerによる多元的政策分析枠組みを用いて同制度の政策分析を行った。その結果,コンテクストレベルにおいては,目標達成度,医師としての専門性・自立性といった観点から肯定的評価が支配的であることが明らかとなったが,社会全体レベルにおいては,新制度(特にマッチングシステム)の導入が引き金となって,医局による医師の引き上げが意図せず発生し,医師偏在(不足)という問題につながったことがわかった。こうした分析に加えて,政治哲学・公共哲学や各国医療制度に関する文献調査,専門家・有識者らへのインタビュー調査を通じて,平等-自由の軸と医師の私的性格-公的性格の軸という2つの価値軸からなる価値平面を作成した。この価値平面は,複雑な問題・解決策について議論・検討するための概念装置としての役割を果たすものである。最後に,この価値平面を用いて,新医師臨床研修制度ならびに医師偏在を巡る問題に対して,より「よい」解決策をデザインする方向性を検討した。

  • 佐野 亘
    2013 年13 巻 p. 65-80
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    公共政策を論じるうえで,価値や規範の問題について検討する必要があることは多くの論者が認めている。だが実際には,公共政策の規範的側面に関する研究は必ずしも充実しているわけではないし,具体的方法論も確立していない。本稿では,規範的政策分析がこれまでわが国でじゅうぶんになされてこなかった理由について考察したうえで,その意義を確認する。そして最後に,規範的政策分析がどのようなものであるべきかを論じ,具体的な方法論の確立に向けて,必要条件を提示し,そのあり方について,おおまかなイメージを描き出す。

    以上の検討から明らかになったことは,以下のとおりである。第一に,価値や規範に関する議論がときに政治的に重要な役割を果たすとしても,規範的政策分析を実際の政策過程に有効なかたちで組み込むには相応のエ夫が必要である。第二に,規範的政策分析は,一般的な規範理論研究と異なり,真理の追求をおこなうこと自体が目的ではなく,合意形成や選択肢の提示にとって役立つものでなければならない。第三に,そのような役割を果たすためには,政策に関わるコミュニケーションにおいて利用される価値概念や規範概念の意味内容や関係性を明確化するとともに,ことばになりにくい感覚や感情を言語化することも必要である。第四に,以上の作業をおこなうための前提条件として,人々が実際に有している価値観やモラルを知っておく必要がある。なお,以上の議論は基本的にプラグマティズムの観点からなされており,政策過程におけるレトリックや解釈,コミュニケーションの重要性を踏まえたものである。

研究ノート
  • 黒澤 之
    2013 年13 巻 p. 81-90
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    政府が調査し公開する確率論的地震予測や震度分布予測などの地震ハザード情報は,減災施策のために有益な情報であり,建築物の耐震設計基準や地震保険の料率計算などに反映されてきた。多くの地方公共団体は地震防災を意識している。地震ハザード情報をまちづくりにおける規制や建築設計強度の割増しという形で活用している事例はまだ少数である。これは,地震ハザード情報の信頼性だけでなく,現行制度にも課題があるものと考えられる。大震災による被害を目の当たりにした今,国や地方公共団体が国民の生命を守る観点で防災まちづくりの議論を深めていくことが望まれる。

  • 長谷川 桃子
    2013 年13 巻 p. 91-103
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    日仏の文化政策を共通の分析枠組で分析することによって,両国の都市の文化政策における中央―地方関係,文化政策をめぐる自治体組織の性質がこれまでになく明確になるのではないだろうか。この仮説を出発点として,本研究で試みるのは,体制間の並列的な比較によって中央―地方関係という文脈における日仏諸都市の文化政策の性格を際立たせることである。そしてこの比較研究を通して,日本の戦後の文化政策にかんする従来の見解とは異なった,国・自治体の文化政策の意義の提示を目指す。

    本研究では日仏諸都市の文化政策の性質を〈集権・分権〉〈統合・分立〉概念を使って分析する。この枠組によって日仏諸都市の文化政策を分析した研究はこれまでなかったが,新たにこの枠組を用いることによって,日仏の文化政策に関する中央―地方関係のあり方を再考するための分析上の手がかりを得ることを試みる。

    全体の構成について述べると,本研究の意義と分析手法,分析枠組を提示した後,戦後の日仏諸都市の文化政策を通時的に分析する。その際留意すべきポイントは,両国で共通して観察された都市部における左派(革新)勢力の台頭であり,この特殊な政治的動向が,日仏諸都市の文化政策に与えた影響は多大なものであったということである。そこで,左派勢力台頭前後で区切って,日仏諸都市の文化政策を時系列的に分析する。

  • 田畑 琢己
    2013 年13 巻 p. 104-113
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    技術基準は公共事業の合理性を判断する基準となる。本稿で検討する技術基準は,建設省河川局『改訂新版 河川砂防技術基準(案)同解説・計画編』(山海堂,1998)(以下,『河川砂防技術基準(案)』という。)である。ダム事件などで争点となった「引き伸ばし率」,「基本高水」,「治水効果」などは,具体的な数値や計算方法などの考え方を『河川砂防技術基準(案)』で定められている。裁判例を検討したところ,次の5つの問題があった。①粗度係数の決定には合理的な理由がない。②引き伸ばし率の考え方には理論的な矛盾がある。③基本高水量は,既往最大洪水量と乖離している。④治水効果量は実績洪水と乖離している。⑤同一ダムの裁判例で示された治水効果量には2倍以上の違いがある。『河川砂防技術基準(案)』は,新しい研究成果などを取り入れて実績値との乖離が少なくなるように改正されるべきであり,新しい研究成果などを取り入れるための手続を定める必要がある。裁判所は『河川砂防技術基準(案)』を適用した結果が実績洪水と乖離していないか否かに関して審査を行うべきであると考える。

書評
学界展望
2013年度学会賞の報告
feedback
Top