2013 年 13 巻 p. 91-103
日仏の文化政策を共通の分析枠組で分析することによって,両国の都市の文化政策における中央―地方関係,文化政策をめぐる自治体組織の性質がこれまでになく明確になるのではないだろうか。この仮説を出発点として,本研究で試みるのは,体制間の並列的な比較によって中央―地方関係という文脈における日仏諸都市の文化政策の性格を際立たせることである。そしてこの比較研究を通して,日本の戦後の文化政策にかんする従来の見解とは異なった,国・自治体の文化政策の意義の提示を目指す。
本研究では日仏諸都市の文化政策の性質を〈集権・分権〉〈統合・分立〉概念を使って分析する。この枠組によって日仏諸都市の文化政策を分析した研究はこれまでなかったが,新たにこの枠組を用いることによって,日仏の文化政策に関する中央―地方関係のあり方を再考するための分析上の手がかりを得ることを試みる。
全体の構成について述べると,本研究の意義と分析手法,分析枠組を提示した後,戦後の日仏諸都市の文化政策を通時的に分析する。その際留意すべきポイントは,両国で共通して観察された都市部における左派(革新)勢力の台頭であり,この特殊な政治的動向が,日仏諸都市の文化政策に与えた影響は多大なものであったということである。そこで,左派勢力台頭前後で区切って,日仏諸都市の文化政策を時系列的に分析する。