公共政策研究
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公共工事調達における競争制限の「合理性」――なぜ日本の行政組織は応札数抑制を試みるのか――
渡邊 有希乃
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2020 年 20 巻 p. 162-177

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抄録

日本では1990年代以降,入札の競争性向上を目的とした公共調達制度改革が進行した。しかし国士交通省直轄工事入札における一件当たり応札数は減少傾向にあり,入札の顕在的競争性は低く保たれている。なぜ行政組織は,改革下でもなおこうした制度運用を行うのか。本稿では,むしろ応札数の増大に合理性を見出す多くの先行研究が問題外としてきた「制度運用の取引費用」に焦点を当てることで,手続的合理性の観点から応札数抑制の優位性を検討する。公共工事調達は,低価格・高品質の追求という目標を伴った,事業者選定を巡る行政組織の意思決定活動である。だが,これらトレードオフ関係にある二目標を同時に考慮し,両者の適切なバランスのもとに唯一最適の事業者を決定するには膨大な取引費用がかかり,現実上の行政組織がこれを負担するのは難しい。しかし,事業者の施主能力をふまえた品質判断に基づいて参入可能な事業者を限定し,それを通過した事業者間で競争入札を行わせる,つまり,まずは品質・次に価格といった形で両価値を逐次的に扱えば,意思決定にかかる取引費用は削減される。即ち応札数抑制は,低価格・高品質という目標を同時に追求することの難しさを緩和するための戦略がとられていることの表出として説明され,このとき,事業者選定の手続的合理性は向上していると推論される。なお以上の妥当性は,国士交通省直轄工事の入札結果データを用いた計量分析によって,実証された。

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© 2020 日本公共政策学会
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