2020 年 20 巻 p. 61-75
本稿は,公共政策学教育において少しずつ浸透してきたケース・メソッドという教育手法が,とりわけ実務経験を持つ教員に取り入れやすい手法ではないかと推測し,その実態をメディアを対象とする科目の領域で明らかにすることを試みる。
公共政策学教育において,ケース・メソッドは実践の報告が積みあがってきているが,その研究蓄積は決して豊富ではなく,とりわけ実務家教員を対象にしたものはその実態が明らかになっていない。そこで本稿は公共政策と関係が深いメディアを対象とする科目を捉え,事例とアンケートを通じて観察した。その結果ケース・メソッドは「経験」を重視するという特徴をもって,実務家教員に取り入れやすい手法と示す。さらにケース・メソッドは,実務家教員に不十分とされてきた経験から得られた知識(実践知)の体系化を可能とすることも導く。
しかし,このような特徴がありながらも,ケース・メソッドはメディアを対象とする科目を担当する実務家教員全体に浸透しているとはいいがたく,自らの講義手法がケース・メソッドであるとの自覚がなく用いられている場合もあった。今後実務家教員が学びの機会を持つことで,ケース・メソッドが積極的に広がる可能性があると論じる。