2020 年 20 巻 p. 49-60
公共政策学とその教育であるところの公共政策教育は人材育成を主要な目的の1つとしている。様々な教育手法がある中で,公共政策学教育についての先行研究では,公共政策学教育を民主主義社会における公共政策の決定に参加する能力を育むものと捉えた上で,PBLが実際の問題に主体的に取り組むことを学生に求めていることに注目し,PBLが公共政策学教育の中核を担うとしている。
公共政策学教育の手法としてはPBLだけではなくケース・メソッドもある。本稿では,公共政策学教育においてケース・メソッドが重要であることを論じるとともに,PBLとの相違を明らかにすることでケース・メソッドの特徴を明らかにする。政策形成の学習であること,知識と体験の統合を行うものであることという公共政策学教育の中核として重要な点においてケース・メソッドはPBLと共通するが,PBLが政策現場との関わりを持つのに対し,ケース・メソッドは模擬的手法であり政策現場との関わりを持たない。そこから,学習者では本来扱えないレベルの政策を扱うことができる,要点に焦点を合わせて短時間で学べる,反復的に学習することが可能といったことがケース・メソッドの特徴である。また,本稿では,公共政策学教育におけるPBLについて,教員等に支援されつつ学習者が政策過程の完全な実体験をする教育手法であることを明らかにするなど,いくつかの新しい知見を提供する。PBLやケース・メソッドなど公共政策学教育の手法についての研究の課題についても指摘する。