2021 年 21 巻 p. 136-147
現代の執政長官は,議案形成を主導するためにしばしば官僚制における議案形成過程を集権化する。本論文は,集権化についての先行研究に残された問いとして(1)執政長官は選挙前連合の規模に応じてどの程度集権化/分権化しているのか,(2)執政長官による集権化は執政長官の議案への議員の賛否にどのように影響するのか,を問う。そのために,本論文は1991年から2014年までの日本の都道府県を事例として選択する。日本の都道府県についての研究も,これらの問いに未だ答えられていない。本論文は,合理的選択理論による仮説構築と,筆者が作成した都道府県の官僚制組織についてのデータセットによる計量分析から,以下のことを明らかにした。第一に,知事は選挙前連合が小さいほど議案形成過程を集権化する。第二に,知事が議案形成過程を集権化するほど,知事提出議案の修正・否決は増加する。これらの結果を合わせると,知事が,選挙前連合の規模に応じた再選戦略として,議案形成過程の集権性を変化させることによって間接的に議員に影響力を行使しているということが示唆される。換言すれば,議案形成過程は知事によって議員と関係を構築する政治的な手段として利用されており,議員は議案の政策内容のみならず議案形成過程の集権性も考慮しながら知事提出議案への賛否を決定している。