公共政策研究
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21 巻
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巻頭言
会長講演
特集紹介
特集
I グリーン・リカバリー
  • 坪郷 實
    2021 年 21 巻 p. 18-32
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2023/05/18
    ジャーナル フリー

    グリーン・リカバリー(緑の復興:green recovery: Grüner Wiederaufbau)は,気候危機とコロナ危機を同時に克服するエコ的経済的社会的な復興であり,緑の景気プログラムと社会的・エコロジー的転換を進める構造転換という二重戦略である。そして,「持続可能性のある,気候中立な,回復力のある経済と社会への移行プロセス」である。ドイツでは,世論調査における市民の気候保護政策に対する優先順位は高い。「未来のための金曜日」運動の影響も強く,S・バックセンら青年の訴えに対して憲法裁判所は,2021年4月に,世代間公正を根拠にして2019年気候保護法の部分的違憲判決を出した。メルケル大連立政権はいち早く対応し,改正法を可決した。このグリーン・リカバリーは,この間ドイツが取り組んできた脱原発,エネルギー転換,交通転換,農業転換を進める気候保護政策の延長上にある。2020年後半のEU議長国であつたドイツのメルケル首相のもとで,ヨーロッパ・グリーン・ディールが推進され,コロナ復興基金とEU多年次財政枠組(2021~27年)が決まった。これに先立ち,ドイッ連邦政府は危機克服と将来プログラム(国際協力を含む)である1300億ユーロの景気対策プログラム(2020~21年)を決めた。エネルギー転換は,広範囲な社会的受容のある市民が参加するプロジェクトである。しかし,エネルギー転換では,電力経済の再構築のみでなく,交通と建築部門,経済と労働世界,結局個人の生活スタイルを含む全社会の再構築が問題であるので,個別部門における政治的措置を相互に調整することが長期的に克服すべき課題としてある。

  • 的場 信敬
    2021 年 21 巻 p. 33-44
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2023/05/18
    ジャーナル フリー

    英国は現在,気候変動,Covid-19パンデミック,そしてブレグジットと,国内の社会経済を揺るがす3重のインパクトに見舞われている。これらのインパクトを受け止め復興する手段として,ジョンソン首相は,グリーン・リカバリーの考えを国策の中核に据えることを決定し,2020年11月に発表した「10の計画」の中で,「グリーン産業革命」の実現による社会・経済復興の戦略を国内外に示した。

    近年英国では,洋上風力を主力とした再生可能エネルギーの主力電源化(電源構成の47%),化石燃料車の新車販売禁止の2030年への前倒し,2050年温室効果ガス排出ネットゼロ目標の法制化など,この分野で急進的な取り組みを次々と進めている。

    以上を踏まえて本稿では,英国の気候変動法以降の気候変動政策を概観しつつ,グリーン産業革命によりどのような復興を志向しているのかについて,1)グリーン・リカバリーがどのような意味で理解され,政策化されているのか,2)政府戦略を現場で実践する3つのアクター:地方自治体,企業,市民社会セクターがどのような役割を担うのか,という2点に注目しつつ分析した。結論として,気候変動対策の具体化と関連産業の育成による経済復興のビジョンは示された一方で,脱炭素化に必要なより広範な社会的側面への政策と,政策実践のアクターとなる地方自治体や市民社会との連携が,これからの課題となることを指摘している。

  • 金 振
    2021 年 21 巻 p. 45-63
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2023/05/18
    ジャーナル フリー

    2020年9月22日に開かれた国連75周年総会の一般討論演説において,中国習近平国家主席(以下,習主席)は,「2030年より前に二酸化炭素の排出のピークを達成し(2030年目標),2060年より前に炭素中立(カーボンニュートラル。以下,2060年目標)を達成するように尽力」することを表明した。同年12月12日に開催された世界気候サミットの場にて,習主席は,2030年より早い時期でのピークアウトの達成を強調し,2030年まで,①GDP比CO2排出量を2005年に比べ65%以上削減する,②一次エネルギーに占める非化石エネルギーの割合を25%前後にする,という目標を発表した(2030年強化目標)。中国政府は,2030年強化目標と2060年目標を「3060目標」と略し,公式な国家脱炭素目標として位置づけ,国内政策に適用している。本稿の目的は,中国が3060目標を軸とした,①脱炭素成長戦略の確立の背景②脱炭素戦略確立における戦略的思考,③2060年ネットゼロ目標の実現に向けた課題,の3点について明らかにする。

  • 諸富 徹
    2021 年 21 巻 p. 64-79
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2023/05/18
    ジャーナル フリー

    グリーン・リカバリーを実行するため,各国政府は財政拡大で経済復興と脱炭素化の同時達成を目指している。本稿ではまず米国,EU,日本の財政政策を比較し,米国とEUが明確に「財政政策のグリーン化」志向なのに対し,日本は「グリーン化なき財政拡張」であることを確認する。後者の背景には,脱炭素化と経済成長を依然としてトレードオフ関係でとらえる視点がある。これは,産業部門の削減率をできる限り小さくし,費用負担を抑制する政策的特徴につながる。

    短期的には産業救済を図るこの政策は,中長期的には日本の産業構造転換の停滞を生み出し,経済成長の低迷だけでなく,温室効果ガスの排出削減の停滞をもたらした。欧州を中心に多くの国々で「デカップリング(経済成長と温室効果ガス排出の伸びの切り離し)」が進展し,炭素生産性(GDP/温室効果ガス排出量)が上昇しているのと対照的である。本稿では,カーボンニュートラル宣言を受けて発表された「グリーン成長戦略」をはじめとする日本政府の温暖化対策もまた,こうした限界を免れていないことを確認する。

    本稿は最後に,著者らが実施したマクロ計量エネルギーモデルを用いた2050年カーボンニュートラル実現のもたらす経済影響シミュレーションを紹介し,カーボンプライシング導入による税収を脱炭素化投資に還流することで,経済成長が加速されるとの結果を示した。日本の気候変動政策には,こうした政策イノベーションが求められる。

Ⅱ グローバル・リスクと公共政策学
  • 明日 香壽川
    2021 年 21 巻 p. 80-89
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2023/05/18
    ジャーナル フリー

    気候変動は,その性質から,より長期的に危機的状況をもたらすグローバルな安全保障問題である。そのため,各国は,「2050年カーボン・ニュートラル」のようなコミットメントをするようになった。しかし,各国が現時点のコミットメントを2030年に実現したとしても,パリ協定で採択された全体目標の実現は極めて難しい状況にある。

    難民問題と気候変動の関連性も,今後ますます重要になる。最新のIPCC報告書も,極端気象が増加することを示しており,これは極端気象によって大量の難民が発生することを意味する。一方,気候変動問題においては,特にその対策において,一人当たりの排出量や歴史的排出量が異なる先進国と途上国との間には,公平性の問題が依然として存在する。被害への補償という側面をも持つ資金援助の問題も絡んでいる。

    今後の国際交渉において,もし米国が2035年に電力分野のゼロエミッションを実現できるような規制を導入できたら,中国が他国の様子も見つつ,目標を引き上げる可能性はある。しかし,そのためには,先進国は具体的な政策の実施や途上国に対する資金支援を含めたさらなるコミットメントも要求されるだろう。

    気候変動枠組条(UNFCCC)のもとでの国際交渉には構造的な問題もある。それは全会一致方式である。しかし,そのような問題点があつても,政策決定プロセスの民主性という意味で,UNFCCCを代替するような国際的な枠組みの構築は難しいのも現実である。

  • 宮脇 昇
    2021 年 21 巻 p. 90-101
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2023/05/18
    ジャーナル フリー

    国際制度は,永遠のものではない。リスク認識に基づき,主権国家の期待が収敏する範囲で国際制度は誕生する。その後,国際制度は自律的に機能を拡大させるが,主権国家の期待は徐々に失われる。この間隙により制度は硬化あるいは劣化する。そこに危機が忍び寄る。国際制度は危機を乗り越えようとするが,歴史的にみれば多くの場合それは失敗し,主権国家に多くの衝撃を与える。制度の発展がなされるか,新しい制度が設立されるか,いずれにせよ主権国家の期待が収敏しない制度の持続性は乏しい。制度は大国間対立が弱まる時期に多く発足する。冷戦と第二次冷戦の間の冷戦間期にも制度の誕生や発展をみた。しかしその後参加国の国益との乖離をみせた制度も少なくない。その事例として本稿では,欧州安保協力機構(OSCE)とそれを補完する1.5トラックのウランバートル対話をとりあげ,制度硬化と危機との関係を論じる。

  • 大屋 雄裕
    2021 年 21 巻 p. 102-110
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2023/05/18
    ジャーナル フリー

    人工知能(AI)に関して想定されるグローバル・リスクについて論じるにあたり,その活用の現状として個々人の日常生活に加え社会全体の統治ないし集合的意思決定の範囲において大規模に浸透しつつある状況を確認する。その後近年進行しつつある第三次AIブームと呼ばれる急速な技術発展・普及の背景にある深層学習(ディープラーニング)と呼ばれる技術が持つ特徴と,それがAIシステム全体のブラックボックス化に大きく影響していることについて説明する。その上で,しばしば主張されるようなAIに関するリスクとAIにより生み出される危機の想定について述べる。

    その一方,そこで想定されているようなリスクシナリオがAI研究者のあいだでは必ずしも現実的なものと受け止められていないこと,その背景にあるAIの多義性と現時点での達成水準(さらには現実的に実現可能性が展望されている範囲)について確認する。その際我々がAIに期待するもの,それとの比較において我ら自身のもの(人間らしさ)として想定している内容が大きく変貌している点についても述べる。

    その上で,技術開発自体が社会的選択を背景にして行なわれる我ら人間の行為であることからそれに関するリスクのあり方についても一定の傾向が生じることを指摘し,AIをめぐるリスクはどこにどのようなものとして存在するのか,そこで想定される問題の所在に適切に対応した施策とはどのようなものかなどの点について論じる。

  • 宇佐美 誠
    2021 年 21 巻 p. 111-123
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2023/05/18
    ジャーナル フリー

    近年におけるグローバル・リスクの増大を前にして.英語圏では過去20年間に存亡リスクに関する学際的研究が大きく発展してきた。人類が存亡リスクを成功裡に回避するならば,極めて長期間にわたり膨大な数の諸個人が生存するだろうと予期されるため,存亡的危機の生起確率がいかに小さかろうとも.それを僅かに減少させる努力にさえ,巨大な価値が認められる。存亡リスクの実効的減少のためには政策的対処が不可欠であるから.存亡リスクは公共政策学上の研究主題に含まれる必要がある。それにもかかわらず.近年の存亡リスク研究の知見を踏まえた政策学的考察は,日本では皆無に近い。こうした先行研究の間隙を埋めるため,存亡リスク研究の理論枠組みの改良を提案し.主要なリスクを概観した上で,これらのリスクが提起する公共政策学上の課題を考察することが,本稿の目的である。

    初めに存亡リスクの減少がもつ大きな価値を指摘した上で,このリスクをめぐる公共政策学的論点について考察するという目的を設定する。次に,存亡リスクの定義と位置づけについて,代表的学説を検討しその修正を提案する。そして,自然的リスク,現行技術がすでに惹起している人為起源リスク,近未来技術が招来しうる人為起源リスクを順に概観する。これらの作業に基づき存亡リスクが提起する公共政策学的課題について,政策フィードバックの不可能性を確認し,社会的割引率の無関連性を証示し,逆費用便益分析の部分的有用性を指摘する。最後に結論を述べる。

投稿論文
  • 大田 衛
    2021 年 21 巻 p. 124-135
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2023/05/18
    ジャーナル フリー

    規制執行戦略における伝統的なモデル(執行活動モデル)では,違反者の類型に応じて行政,とりわけ第一線職員が取るべき対応が異なることが説かれてきた。しかし,このモデルは執行過程における行政と被規制者の「相互作用」を必ずしも上手く捉えられていない。そこで本稿では,相互作用の分析に強みを持つゲーム理論を用いて,執行活動モデルの再定式化を試みる。「規制ゲーム」と「交渉ゲーム」の複数のモデル分析を通じて,①「善意の違反者」に指導(周知戦略)で対応しつつ,「機会主義者」に違反を思い止まらせることは不可能であること,②消極主義の行政による違反放置をなくすには,違反を放置した場合に行政が得る利得を減少させることが有効であること,③「異議申立者」に対する適応戦略の有効性は,交渉の不一致点としての訴訟に対する行政及び被規制者の評価と,交渉の長期化に対する行政の忍耐力に依存すること,といった相互作用の数理的構造が明らかとなる。また,仮定から結論に至るメカニズムを明確化することで,規制政策に関する仮説を提示し,今後の更なる研究の発展に寄与する。

  • 竹中 勇貴
    2021 年 21 巻 p. 136-147
    発行日: 2021/12/10
    公開日: 2023/05/18
    ジャーナル フリー

    現代の執政長官は,議案形成を主導するためにしばしば官僚制における議案形成過程を集権化する。本論文は,集権化についての先行研究に残された問いとして(1)執政長官は選挙前連合の規模に応じてどの程度集権化/分権化しているのか,(2)執政長官による集権化は執政長官の議案への議員の賛否にどのように影響するのか,を問う。そのために,本論文は1991年から2014年までの日本の都道府県を事例として選択する。日本の都道府県についての研究も,これらの問いに未だ答えられていない。本論文は,合理的選択理論による仮説構築と,筆者が作成した都道府県の官僚制組織についてのデータセットによる計量分析から,以下のことを明らかにした。第一に,知事は選挙前連合が小さいほど議案形成過程を集権化する。第二に,知事が議案形成過程を集権化するほど,知事提出議案の修正・否決は増加する。これらの結果を合わせると,知事が,選挙前連合の規模に応じた再選戦略として,議案形成過程の集権性を変化させることによって間接的に議員に影響力を行使しているということが示唆される。換言すれば,議案形成過程は知事によって議員と関係を構築する政治的な手段として利用されており,議員は議案の政策内容のみならず議案形成過程の集権性も考慮しながら知事提出議案への賛否を決定している。

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