気候変動は,その性質から,より長期的に危機的状況をもたらすグローバルな安全保障問題である。そのため,各国は,「2050年カーボン・ニュートラル」のようなコミットメントをするようになった。しかし,各国が現時点のコミットメントを2030年に実現したとしても,パリ協定で採択された全体目標の実現は極めて難しい状況にある。
難民問題と気候変動の関連性も,今後ますます重要になる。最新のIPCC報告書も,極端気象が増加することを示しており,これは極端気象によって大量の難民が発生することを意味する。一方,気候変動問題においては,特にその対策において,一人当たりの排出量や歴史的排出量が異なる先進国と途上国との間には,公平性の問題が依然として存在する。被害への補償という側面をも持つ資金援助の問題も絡んでいる。
今後の国際交渉において,もし米国が2035年に電力分野のゼロエミッションを実現できるような規制を導入できたら,中国が他国の様子も見つつ,目標を引き上げる可能性はある。しかし,そのためには,先進国は具体的な政策の実施や途上国に対する資金支援を含めたさらなるコミットメントも要求されるだろう。
気候変動枠組条(UNFCCC)のもとでの国際交渉には構造的な問題もある。それは全会一致方式である。しかし,そのような問題点があつても,政策決定プロセスの民主性という意味で,UNFCCCを代替するような国際的な枠組みの構築は難しいのも現実である。
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