公共政策研究
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Print ISSN : 2186-5868
I グリーン・リカバリー
ドイツのグリーン・リカバリー
坪郷 實
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2021 年 21 巻 p. 18-32

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抄録

グリーン・リカバリー(緑の復興:green recovery: Grüner Wiederaufbau)は,気候危機とコロナ危機を同時に克服するエコ的経済的社会的な復興であり,緑の景気プログラムと社会的・エコロジー的転換を進める構造転換という二重戦略である。そして,「持続可能性のある,気候中立な,回復力のある経済と社会への移行プロセス」である。ドイツでは,世論調査における市民の気候保護政策に対する優先順位は高い。「未来のための金曜日」運動の影響も強く,S・バックセンら青年の訴えに対して憲法裁判所は,2021年4月に,世代間公正を根拠にして2019年気候保護法の部分的違憲判決を出した。メルケル大連立政権はいち早く対応し,改正法を可決した。このグリーン・リカバリーは,この間ドイツが取り組んできた脱原発,エネルギー転換,交通転換,農業転換を進める気候保護政策の延長上にある。2020年後半のEU議長国であつたドイツのメルケル首相のもとで,ヨーロッパ・グリーン・ディールが推進され,コロナ復興基金とEU多年次財政枠組(2021~27年)が決まった。これに先立ち,ドイッ連邦政府は危機克服と将来プログラム(国際協力を含む)である1300億ユーロの景気対策プログラム(2020~21年)を決めた。エネルギー転換は,広範囲な社会的受容のある市民が参加するプロジェクトである。しかし,エネルギー転換では,電力経済の再構築のみでなく,交通と建築部門,経済と労働世界,結局個人の生活スタイルを含む全社会の再構築が問題であるので,個別部門における政治的措置を相互に調整することが長期的に克服すべき課題としてある。

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© 2021 日本公共政策学会
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