公共政策研究
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政策形成と市民の知識―基礎自治体における市民パネルの実践から―
長野 基
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2022 年 22 巻 p. 113-126

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抄録

日本の基礎自治体において「市民の常識知」を政策形成に入力するチャンネルは1960年代後半以降,重層化されてきたが,なかでも21世紀に進展したものが住民基本台帳からの無作為抽出回招聴によりメンバーを選定して自治体計画・事業の検討や審査を行う取り組みである。これは世界的な「ミニ・パブリックス」の潮流とも軌をーにする。本研究では「政策形成と市民の知識」の問題を市民の審査。提言に対する自治体官僚組織の受容。応答の視角から,組織編制ならびに扱う案件のセイリアンスの高さが計画局面・評価局面でそれぞれ異なる4つの「無作為抽出型市民パネル」での参与観察より探究した。無作為抽出型市民パネルによる自治体事業の審査。評価活動は,計画局面。評価局面の双方において,自治体官僚機構の政策検討過程に入力される政策知識を多元・豊富化させ,彼らの政策的学習を促す。しかしながら,市民パネルの審査提言からの「学習による修正」は官僚機構が生成している政策規範と首長が与える政策規範によって制約される。市町村の政策・事業検討手続きにおいて,無作為抽出型市民パネルの良さを活かすには,首長と評価を運営する企画・行革部門,そして,所管事業が審議される事業部門との問で市民パネルの審査・評価を通じて何を実現するかの認識の調整が図られることが重要である。この認識の調整を前提として,審議手順の設計においては,官僚組織に「学習に基づく修正」を促す豊かな情報資源を提供する[ロジックとプロセスの見える化」そして「コミットメント向上の仕掛け」を整えることが官僚機構側での自立的改善を促すうえで重要である。

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© 2022 日本公共政策学会
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