公共政策研究
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巻頭言
特集紹介
特集
  • 松田 憲忠
    2022 年 22 巻 p. 8-19
    発行日: 2022/12/10
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル フリー

    本論文のねらいは,知識交換の観点から政策過程を捉え直し,政策過程の理解の深化に向けた知識活用の視点の有用性を明らかにすることにある。具体的には,政策に関する知識を「理論知」「経験知」「現場知」の3つに分類したうえで,それらの知識のあいだでの交換をめぐるインタラクションを,知識交換の組合せごとに整理する。そこで明らかになったことは,政策過程に対して知識交換の視点からアプローチすることによって,政策過程を広い視野で描くことができるという点である。すなわち,多様なアクターが関わる多様な知識交換のインタラクションが政策過程において展開されているのである。こうした政策過程の描出から示唆されるのは,デモクラシーの実践の改善に向けて,社会全体で取り組むことの重要性である。さらに,本論文は,政策過程を知識交換として捉えることからみえてくる1つの課題―知識の融合―に論及する。政策過程における知識交換をめぐっては,知識活用の政治化といった実証的知見が蓄積されている一方で,政策過程に投入されるさまざまな知識を如何に融合すべきかという規範的な聞いについては,重要示唆を提供する理論やモデルは提唱されてはいるものの,政策選択の指針を提供するまでには至っていない。知識の融合に向けた哲学的な取組みがさらに進められることが求められる。

  • 鈴木 潔
    2022 年 22 巻 p. 20-32
    発行日: 2022/12/10
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル フリー

    ヰヰ要約本稿では,児童相談所の児童虐待対応を事例として,政策実施を担う行政機関(実施機関)が政策知識を創出し,活用するプロセスを検討した。具体的には,政策知識を理論知と経験知に区別するとともに,SECIモデルを一部改変して,児童相談所の現場と厚生労働省,専門家・研究者,関係機関等で構成される政策ネットワークの相互作用によって,知識変換が促進されるメカニズムを検討した。その結果,把握できたことは次の5つである。

    第1に,日々の実務を通じて現場職員に蓄積された経験知が原点となり,職場内および関係機関との知識の「共同化」が図られていること,第2に,現場職員の持つ経験知が,ボトムアップでルール化・モデル化されて理論知となり,対外的に「表出化Jされること,第3に,現場職員が依拠する理論知と,他の専門分野の理論知が「連結化」することで,政策実施の改善や新たな政策体系の創出につながる乙と,第4に,国がトップダウンで作成した法制度や指針などの理論知が現場職員に「内面化」されること,第5に,実施機関と政策ネットワークの相互作用により,知識転換が促進されることである

  • 石垣 千秋
    2022 年 22 巻 p. 33-46
    発行日: 2022/12/10
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル フリー

    2020年にパンデミックとなった新型コロナウイルス(COVID-19)は,各国に大きな影響を与えた。人類がはじめて遭遇したウイルスに対応するため,国際政治,国内政治ともに「専門家」の見解に政策は影響を受け,科学と政治の関係性について盛んに議論された。日本でも,専門家会議や感染症対策分科会の見解は政策に影響を及ぼした。専門家と政治の関係性を分析する理論として,認識共同体論と政策学習論は非常に有効である。高度に技術的な知識を政府が得ようとする場合は,科学者からなる認識共同体から学習する[認識的学習」が行われるが,政府の学習が進むと知りたいことだけを専門家に問うための「貢献者」とへ専門家集団の役割が変わるとされる。これまでの日本のCOVID-19対策の過程でもその点は確認されるが,そうであっても専門家たちは内部で結束して「教師」として部分的には政府の方針を修正する役割を果たしてきた。

  • 手塚 洋輔
    2022 年 22 巻 p. 47-58
    発行日: 2022/12/10
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル フリー

    政策過程において,専門知を摂取する重要なツールとして諮問機関がある。これらの中には,近年,所管府省の異なる複数の審議会を一緒に開催したり,府省を横断した会議体を共同設置したりするケースが散見される。そこで本稿では,こうした審議会の合同設置・共同設置を取り上げて,政策過程における機能と限界を考察する。合同設置された審議会の設置形態は多様性に富んでいるが,設置目的に応じて,共管事務処理型,重複調整型,対立調整型に大別できる。各型に共通として,事務局を担当する府省が交代で担当する事務局輪番制が幅広く見られ,府省聞の政策調整の定着を促していると考えられる。重複調整型(食品表示)と対立調整型(地球温暖化)の事例研究を通じて,適正な人数の規模でという留保がつくものの,専門家を一堂に集めることで共通認識を深めるなど,委員の人的な継続性と事務局輪番制とがあいまって,政策調整の基盤となることを提示するとともに,対立する論点を回避するようになるなど,政策革新の荏桔ともなりうることも指摘する。合同設置の全体像をとらえるには,今後さらに,さまざまな領域で展開されている事例を収集し,比較していくことが求められる。

  • 砂原 庸介
    2022 年 22 巻 p. 59-71
    発行日: 2022/12/10
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル フリー

    近年,社会保障の給付と税の負担を一体のものとして考え,税の軽減や還付によって再分配を行おうとする議論が注目されている。その際に重要なのは,人々の個人情報を利用して適切な給付のターゲットを絞ることである。2013年に導入されたマイナンバー制度は,情報連携のためのインフラストラクチャーになると期待されているが,現在までのところ,所得や税に関する個人情報を他の個人情報と連結させることが進んでいない。地方自治体における所得や税についての情報の守秘義務は厳格であり,地方自治体はそれぞれに独自の規律によって所得や税の情報を保護しているからである。

    本論文では,給付と負担をリンクさせた新たな政策を構想するに当たって,税務情報を含めた個人情報を利用する情報連携が人々から支持を受けているかどうかを,オンラインでのサーベイ実験で検証した。その結果,人々が税務情報を利用したものであっても,情報連携について肯定的に考えている傾向があることが示された。情報収集の方法を,郵送から情報連携に変えていくことは,給付の対象を限定するかどうかの議論と同程度に,その支持に対してインパクトをもたらす可能性がある。さらに,情報感度の度合いによって3つのグループ分けして分析を行い,情報の利用に寛容なグループにとっては給付を実施することが,中間的なグループにとっては情報連携を強調することが,支持を高めることが示された。

  • 深谷 健
    2022 年 22 巻 p. 72-85
    発行日: 2022/12/10
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル フリー

    本稿は,EBPM推進の期待に反して,その機能が阻害される要因について,行政組織における「情報の作成」と「情報の利用」に着目して検討するものである。とくに,かつてPPBSと政策評価の設計で議論された2つの主たる課題:政策効果検証と情報利用の政治性に焦点を当てる。まず,組織における情報作成の課題として,政策効果検証をめぐる証拠の客観性追求の意義とあわせて,その作成に行政内部で過大なコストがかかるがゆえにその作業が不安定になり,分析対象も限定化されることを示す。次に,組織の情報利用の側面では,客観的証拠を追求すれども,組織上位段階と組織外部での利用段階で,情報が政治性を帯びざるを得ないその構造的な政治的メカニズムを指摘する。そして,こうした情報作成と情報利用をめぐるそれぞれのトレード・オフ構造を組み合わせ,「EBPMの組」織的ディレンマ」として把握できるEBPM推進を制約する構造を示す。すなわち,組織において証拠の客観性を追求すればするほど,一方で情報作成商では過大な行政内部コストが生じ、他方で情報利用面では政治化フィルターを通らざるを得ないという構造的制約があること,そしてその結果として,期待されるEBPMを容易に形骸化させるリスクを持つことを示唆する。であるからこそ,あらためて,「EBPMへの道」を模索する上では,既存の政策過程を考慮することが重要になることを示唆する。

  • 西出 順郎
    2022 年 22 巻 p. 86-99
    発行日: 2022/12/10
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル フリー

    ヰ体要約

    本稿の目的は,行政機関内のEBPMの内生化に資するべく,行政システムとEBPMとの接合に係る内実を前提として,両者の接合性を探索することにある。そのため,本稿では,地方自治体を例に,当該接合の優劣を左右する同システム内のアクターたる行政職員の行動規範に着目しながら接合に係る行動様式を推論し,その改善可能性について検討を加えた。当該推論を基に得られた同探索の結果は次のとおりである。第1に,行政システム内での科学的知見の活用は各アクターが活用価値をどの程度認識するかに依存することである。同システムで展開される政治的な駆け引きに鑑みると,総じて科学的知見の活用に対する各アクターの姿勢は前向きとはいえない。第2に,その中でも内的要因が整えば,すなわち科学的知見の獲得コストが組織的に許容され,かつ,一部アクターがその肯定的な活用方法をあらかじめ予測できれば,同知見のアクターへの接合性は高まることである。第3に,外部による直接的な要請・介入の影響力が強くとも,それらと対峠する異見が社会的に受容されれば,かつアクターが科学的知見の活用を糧に当該影響力の低減を目論むならば,当該接合性は高まることである。

  • 松尾 隆佑
    2022 年 22 巻 p. 100-112
    発行日: 2022/12/10
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル フリー

    政策形成において活用すべき知識には,学術的な専門家の理論知だけではなく,一般市民の常識知や,ステークホルダー(利害関係主体)の現場知も含まれる。特にステークホルダーの知識や利害関心を考慮しない決定は正統性や受容可能性が低くなりやすいため,多様な現場知を活用することは,規範的にも戦略的にも重要である。そこで本稿は,ステークホルダーの知識を活用する方法について検討を加える。また,その成果を踏まえて日本の放射性廃棄物管理政策を批判的に考察する。

    多くの場合に暗黙知として保有されているステークホルダーの現場知を,理論知などと統合することには,困難が伴う。それは,異なる種類の専門知である現場知と理論知を架橋するための対話型専門知が,しばしば欠如しているからである。対話型専門知を蓄積して異なる知識を統合するためには,ステークホルダーと学術的な専門家が,知識の共同生産を志向するような能動的な参加と開放的かつボトムアップ型の対話を通じて,互いの知識をすり合わせるプロセスが必要だと考えられる。

    放射性廃棄物管理においてはステークホルダーの関与が不可欠だが,日本では受動的な参加や閉鎖的な対話のみが用いられており,ステークホルダーの知識活用や,それを通じた正統性・受容可能性の向上は望みにくい。高レベル放射性廃棄物の処理というウィキッド・プロブレムに対処するためには,意思決定プロセスの見直しが求められる。

  • 長野 基
    2022 年 22 巻 p. 113-126
    発行日: 2022/12/10
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル フリー

    日本の基礎自治体において「市民の常識知」を政策形成に入力するチャンネルは1960年代後半以降,重層化されてきたが,なかでも21世紀に進展したものが住民基本台帳からの無作為抽出回招聴によりメンバーを選定して自治体計画・事業の検討や審査を行う取り組みである。これは世界的な「ミニ・パブリックス」の潮流とも軌をーにする。本研究では「政策形成と市民の知識」の問題を市民の審査。提言に対する自治体官僚組織の受容。応答の視角から,組織編制ならびに扱う案件のセイリアンスの高さが計画局面・評価局面でそれぞれ異なる4つの「無作為抽出型市民パネル」での参与観察より探究した。無作為抽出型市民パネルによる自治体事業の審査。評価活動は,計画局面。評価局面の双方において,自治体官僚機構の政策検討過程に入力される政策知識を多元・豊富化させ,彼らの政策的学習を促す。しかしながら,市民パネルの審査提言からの「学習による修正」は官僚機構が生成している政策規範と首長が与える政策規範によって制約される。市町村の政策・事業検討手続きにおいて,無作為抽出型市民パネルの良さを活かすには,首長と評価を運営する企画・行革部門,そして,所管事業が審議される事業部門との問で市民パネルの審査・評価を通じて何を実現するかの認識の調整が図られることが重要である。この認識の調整を前提として,審議手順の設計においては,官僚組織に「学習に基づく修正」を促す豊かな情報資源を提供する[ロジックとプロセスの見える化」そして「コミットメント向上の仕掛け」を整えることが官僚機構側での自立的改善を促すうえで重要である。

  • 小松騎 俊作
    2022 年 22 巻 p. 127-140
    発行日: 2022/12/10
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル フリー

    サステイナビリテイ・トランジションにおいては,社会の長期的利益を実現する政策形成が不可欠だが,民主主義の近視眼的な性質がしばしば障害となっている。そこで本稿では,長期的サステイナビリティの観点で先駆例から本質的知見を抽出し,さらにそれを実装する政治過程の設計を支援する知識を獲得するための多元的政策分析を提案する。日本における自立分散型エネルギ一事業と,その拡大を促した再ヱネ特措法を対象として,社会全体レベルでの政治過程分析,コンテクストレベルでの事例分析(宮城県東松島市,群馬県中之条町,神奈川県小田原市),2つのレベルの分析に基づく統合的検討からなる多元的政策分析を試行した。コンテクストレベルの分析を通して,ビジネスとしての自律性を高めるステークホルダーの互恵関係と,事業目標に対する持続的コミットメントを実現する方策といった,長期的観点で事業のサステイナビリティに資する要素が概念化された。社会全体レベルの分析と統合して検討すると,再エネの量的拡大を優先目標とした制度設計のために,事業のサステイナビリティを実現する方策に制約が生じた可能性が示唆された。多元的政策分析から得られる知見は,政策・制度化アイディアを提示するだけでなく,それを実現する政治的方策を検討する基盤的知識となりうる。

投稿論文
  • 丸谷 明摩
    2022 年 22 巻 p. 141-155
    発行日: 2022/12/10
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル フリー

    太平洋戦争の敗戦に伴い,連合国軍の占領下に置かれた日本では閤経済が横行し,GHQは遅くとも1945年末までには占領統治に及ぼす影響を察知していた。日本政府は効果的対策の実現を追られ,1948年8月1日に創設したのが経済調査庁であり,占領終結後の1952年8月1日の廃止まで経済統制の円滑な実施に取り組んだ。

    闇対策の先頭として期待された経済調査庁であったが,主管であったGHQのESS(経済科学局)と経済調査庁双方の一次資料によれば,GHQ側は経済調査庁に積極的な支持と肯定的な評価を下している一方,日本側の見方は厳しいもので,特に1949年の行政管理庁による監査では「実績・力量の不足」が強調されている。こうした評価の隔たりには効率よりも数値目標達成に重きを置くGHQと,遵法性や費用対効果といった業務効率をより重視する行政管理庁のスタンスの相違があったものとみられる。さらに経済調査庁の創設までは社会党,民主党という革新・中道政権,発足後は日本自由党,民主自由党という保守政権であったことが経済調査庁の存在自体に「政治性」を帯びさせ,その運営にまで影響が及んだことがGHQ資料などから裏付けられた。

    今回,GHQと日本側双方の資料の検証作業により,経済調査庁をめぐる事実関係の一端を明らかにできたと考えるが,特に1951年後半から52年のGHQが経済調査庁をどのように認識していたかは資料が十分に探索できず,これらの残された課題の解明が今後の筆者の研究テーマである。

  • 三上 真嗣
    2022 年 22 巻 p. 156-166
    発行日: 2022/12/10
    公開日: 2024/02/14
    ジャーナル フリー

    件要約

    本稿は,組織統合がODA評価に与えた影響を歴史的に検証する。2008年,政府開発援助(ODA)における実施を担う2つの組織,独立行政法人国際協力機構(JICA)と国際協力銀行(JBIC)が統合した。この再編を通じて,評価の実施プロセスはどのように変わったか。次の3点を整理し,その影響を析出する。すなわち,①統合に至るODAの歴史,②評価の変化に注目したJICA・JBIC統合の過程,③それがもたらす影響を順に把握する。このために,評価を実施する組織の変遷と評価のプログラムの変化に注目する。

    その結論は,組織統合によっても評価を実施する個々のプロセスには変化がないというものである。ODAの実施をめぐって,さまざまな組織統合が繰り返され,それと同時に,それぞれの組織で培われてきた評価も一元化を進めてきた。2008年には, JICAとJBICは外形的に組織統合を果たし,両者の組織目的は一元化されたはずであった。しかし,評価のプログラムをみれば,たしかに歩み寄りを進めたものの,その運用は分かたれたままであった。結果としてそこには所管官庁の違い財務省と外務省の違いなども絡み,アカウンタビリティの断片化が生じていた。

    アカウンタビリティの断片化は,政策のみならず評価の「遠心力」をもたらす。組織統合にあたっては,その制御のための「求心力Jが考慮すべき重要な論点となるだろう。

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