2008 年 7 巻 p. 16-26
国民国家が出現して以来,政府は,公共政策の形成・実施において圧倒的なプレゼンスを示してきた。「市場の失敗」に対応するための政策手法の中心が「規制」であり,規制には「強制カ」が必要とされることから,その能力を独占する政府のみが公共政策の正統な担い手として想定されたからてある。その結果,政策の影響範囲も原則として国境の中にとどまるものと考えられた。
しかし,政府の規制では対処しきれない問題群が発生し,「政府の失敗」を引き起こしている。1990年代以降,EUとその加盟国は,規制手法に内在する課題を克服し,錯綜した政策過程に対応するため,環境政策分野において,環境税,エコラベル,環境監査,自主協定なとの「新しい政策手法」を開発してきた。また,雇用政策分野においては「開放型調整手法」が導入され,強制に頼らない新しい発想に基づく政策手法として適用範囲を広げつつある。これらのプロセスにおいて,政府,欧州委員会,専門家集団,NGO,多国籍企業など,官民のアクターの間で,国境を越えた「政策移転」が起こっている。
本稿では,政策ネットワーク論の枠組みに基づいて,「ガバナンス」が言われる状況においては,政府が「対象集団に働きかけて行動を変更させる」という二者間での一方向的な関係を前提とした政策手法には限界があり,アクター間の関係性に及ぼすィンパクトを考えた政策手法の開発・選択が求められることを指摘する。そのうえで,政策手法がそれぞれの社会のガバナンスに有効な形で導入され,政策価値が学習を通じて共有されていくためには,政府がネットワーク戦略を意識的に展開して必要があると結論づける。