抄録
【目的】
A市に住む高齢者がどのような体温計を使用しているか,腋窩体温計の場合は正しく挿入できているか,測定前に汗を拭きとっているか,使用後体温計の保清を行っているかなどを明らかにすることを目的として質問紙調査を行った。
【方法】
データ収集は,高齢者のレクリエーションや生涯教育および健康の保持増進等のためにA市が設置している施設を利用している人や,地域の高年クラブの会員などを対象者として2015年7~9月に実施した。実施に先立ち,兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所研究倫理委員会に申請し,承認を得た。調査票は留め置き法と郵送法で回収した。体温計使用の実態が性別および前期・後期高齢者の区分で差があるかと,健康情報の入手方法と体温計使用の方法との関連をχ2検定と残差分析により確認した。
【結果】
745名に回答を依頼し,627名から回答を得(回収率84.2%),データクリーニングを行い515名分(男性39.6%,73.7±5.4歳,65~91歳)のデータを分析に用いた。416人(80.8%)が電子式腋窩用体温計を,78人(15.1%)が水銀式体温計を使用していた。体温計の挿入方向の質問を回答した者のうち正答を選択していたのは88名(19.6%)で,その中で健康情報を健康セミナーで得ていると回答した割合は,挿入方向が誤答の群よりも高かった。測定前に腋汗を拭く行為の実施率は78.6%,使用後の体温計の保清行為実施率は34.6%で,前期高齢期の男性群ではこれらの行為の実施率が他群よりも有意に低かった。
【結論】
医療従事者は、望ましい方法で体温を測定できている高齢者の割合が2割未満にすぎないことや,前期高齢男性は体温計の保清行動の実施率が女性や後期高齢男性よりも低いこと,水銀体温計が家庭に残っていることを意識しながら,対象に関わっていく必要性が示唆された。