2018 年 56 巻 3 号 p. 81-91
本稿では,赤ちゃんポストの構想を得た1999年以前のユルゲン・モイズィッヒの思想と実践の変遷に着目して赤ちゃんポスト創設の背景を探ると共に,その思索を通じて戦後ドイツの幼児教育の歩みの中でその動態を示すことにある。彼の主著は90年代に集中しているが,その内容は70~80年代のドイツ教育学,とりわけ「新教育学(Reformpädagogik)」と「反権威主義的教育学(AntiautoritäreErziehung)」の影響が看取できる。だが,90年代以降,アドルノが提唱した「アウシュヴィッツ以後の教育(Erziehung nach Auschwitz)」のへ関心を強め,独自の幼児教育を急進的に展開していく。本論の帰結として,彼の思想の中心には,一貫して反権威主義的な教育学的仲介という概念があったことを指摘し,赤ちゃんポストもまたその文脈で捉えられねばならないということを示す。