2019 年 12 巻 1 号 p. 44-58
本研究は,滋賀県の森林による生態系サービスの経済的価値を,回答者に他者の選好を推測させる推論評価により推定し,従来型の主観評価と比較分析した.滋賀県,京都府,大阪府で琵琶湖・淀川水系内に居住する住民を対象とした分析結果によれば,推論評価による限界支払意思額(MWTP)は,主観評価のものを大きく下回り,バイアスが低減されて経済的価値がより適正に評価された可能性が示唆された.府県別の推定結果によれば,生物多様性保全機能に対するMWTPが有意なのは滋賀県のみであった.京都府・大阪府の回答者は,土砂災害防止機能や水源涵養機能など,より生活に直結した機能を重視しており,県外の生物多様性保全には消極的と考えられる.