本研究の目的は,多数かつ多様なコモンズが含まれる環境ガバナンスの形成過程を明らかにすることである.具体的には,過少利用問題に直面する阿蘇地域の入会牧野組合と,行政,民間事業者などの外部組織と連携の過程について,阿蘇草原再生協議会が果たした役割に注目して分析する.阿蘇草原再生協議会の関係者,牧野組合へのインタビュー,協議会活動の参与観察を実施した.その結果,次の4点が明らかとなった.即ち,環境ガバナンス組織設立時の段階的な取り組みの重要性,コモンズ管理組織と環境ガバナンス組織の仲介役の重要性,コモンズ管理組織と行政の調整役の重要性,コモンズ管理組織の多様性に基づく取り組みの重要性である.
本稿はオーストラリア(豪州)においてローカルレベルの自律的かつ協調的な環境ガバナンスを展開する「ランドケア(Landcare)」の制度に注目し,その環境政策史と制度的なダイナミズムを描出するとともに,ランドケアを連邦政府の環境政策に統合していく際の論点を概説する.ランドケアは自律分散型のガバナンスシステムを必要とするが,中央政府が政策統合を進める上では,1)ランドケアを動員することによる環境管理コストの節約,2)生物多様性保全の実効性と即応性,3)調整コストの3点を総合的に勘案し,弾力的に調整する必要がある.ランドケアは倫理,実践,政策という複数の領域にまたがっており,今後学際的な研究が求められる.
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