本稿では,環境経済・政策学が環境省や経済産業省の審議会・検討会での議論にどう関与してきたか,筆者自身の経験をもとに振り返るとともに,今後のカーボンプライシングの制度設計に求められる役割を展望した.カーボンプライシングの必要性や有効性,炭素リーケージ,経済影響といった産業界からの懸念に対し,環境経済・政策学は一定の研究成果を挙げてきた.そして,環境経済・政策学会の会員が行ってきた様々な研究が,総体として政策議論の前進に貢献できたのではないだろうか.今後決定されるカーボンプライシングの詳細な制度設計における環境経済・政策学の貢献にも期待したい.
本研究は,2020年11月に内閣府の下で発足した「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」の設立経緯,活動実態,影響などについて具体的な事例をもとに分析した.その結果,特に,農業分野での太陽光発電設備に係る立地規制の解消をめぐる議論において,同タスクフォースが市民団体の要望などを利用しながら規制改革を進めたことが明らかになった.このような新たな組織の影響力に関する知見は,日本のエネルギー分野の政策決定過程の変革に資するものであり,同タスクフォースの今後の活動も注目される.
本研究は,2015年農林業センサスの個票データを用いて,環境保全型農業に取り組む茨城県内の農業経営体の特徴を統計的に明らかにした.分析の結果から,経営規模と環境保全への取り組み確率には逆U字の関係があり,農業部門全体の政策の方向性である昨今の農地集積を通した経営規模拡大と環境保全型農業の普及が概ね両立することが示唆される.また,農産物の販売経路によって環境保全型農業への取り組みには違いが見られることを示した.環境保全型農業の普及のためには,経営体の経営戦略や出荷先ごとの異なる消費者を見据えた制度設計の必要がある.
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら