環境経済・政策研究
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排出権取引における初期配分が効率性に与える影響――EU排出権取引制度(EUETS)の現実から考える――
岡 敏弘畔上 泰尚山口 光恒
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2009 年 2 巻 1 号 p. 16-27

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抄録

排出権取引市U度がその目的である効率的な排出削減を達成するための条件という観点からEUETSにおける排出権の初期配分方法を吟味する.条件とは,直接排出削減のみならず製品消費の減退を通じた削減も含めて限界排出削減費用が均等化することである.排出者の生産物の市場について,完全競争の場合,寡占市場でクールノー均衡の場合,寡占市場でフル・コスト価格づけの場合の3つの場合について,(i)排出者のいかなる行動からも独立の許可排出量が配分される場合,(ii)現在の生産量に比例した許可排出量が配分される場合,(iii)現在の排出量に比例した許可排出量が配分される場合,(iv)過去の生産量に比例した許可排出量が配分される場合,(v)過去の排出量に比例した許可排出量が配分される場合が,諸活動の排出水準に与える効果を特定化する.その結果に照らして,EUETSの現実の配分方法がもつ意味を明らかにする.過去または現在の生産量に比例した量が配分される少数の部門の原単位削減活動の限界排出削減費用だけが排出権価格に等しくなり,その他の活動の限界排出削減費用はきわめて低い水準にとどまり,かつ,互いに等しくならないことが明らかになる.そうした配分方法は,域内産業の競争力を確保し,かつ,初期無償配分の不公平さを避けるために,効率性をあきらめたものだと解釈される.

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© 2009 環境経済・政策学会
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