抄録
本研究では,認知機能面が低下している対象者に対して,行動分析学の技法を用いたアプローチで車椅子操作練習を行い,その学習効果とHDS-Rとの関係を検討した.対象者は,身体機能面に問題のない当院入院中の認知機能が低下した患者様11名であった.HDS-Rの平均点は,11.2±5.5点と中等度から重度の認知症を呈していた.車椅子操作は,『①右のブレーキをかける』,『②左のブレーキをかける』,『③右のフットレストを上げる』,『④左のフットレストを上げる』の4項目に細分化した.動作を生起させるプロンプトは,『L1.身体的ガイド+口頭指示』,『L2.タッピング+口頭指示』,『L3.口頭指示のみ』の3段階に分け,標的行動が必ず生起されるようにフェイディングしていった.その結果,対象者のHDS-Rの点数とは関係なく,11名中10名が車椅子操作を獲得し,翌日であっても継続して車椅子操作が可能であった.このことから,HDS-Rの点数に関わらず,行動分析学の技法を用いたアプローチによる無誤学習の環境設定をすることで,動作学習が可能であるという事が示唆された.