健側で振り出す歩行練習が筋緊張の高い片麻痺患者の歩行能力に与える影響について検討した.症例は,右心原性脳塞栓症により左片麻痺を呈した60歳代後半の男性である.X+43病日,Brunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)は下肢Ⅱ-Ⅲであった.歩行は長下肢装具装着下で,平行棒内において要介助であった.麻痺側立脚後期から遊脚期にかけて,下肢クローヌスの出現が著明であり,短下肢装具への変更は不可能であった.X+46病日より健側で振り出す歩行練習を開始.下腿三頭筋の緊張を緩める目的で麻痺側踵に補高1㎝を挿入した.健側は足底全体に補高1㎝を挿入した.健側股関節伸展と足関節底屈による患側下肢のステップ練習,健側下肢のステップ練習,その連鎖化後,平行台周囲の手掌支持による3動作歩行を実施した.ステップ練習前,平行台1周(約11m)に約50秒を要した.しかし同日のステップ練習後,2セット目には30秒まで短縮した.X+98病日より,平行台周囲のon handから指腹支持,T字杖2動作前型歩行に移行できた.また,下肢クローヌスは消失していた.介入終了時点において下肢BRSはⅢ-Ⅳであった.Modified Ashworth Scale(以下,MAS)は,足底屈が2から1+へ低下した.6分間歩行距離は155m,短下肢装具とT字杖を利用して屋外歩行が自立となった.以上の経過から健側で振り出す歩行練習は,痙性を軽減させ,歩行能力を改善させる可能性がある.
抄録全体を表示