抄録
本研究は,同じ会話を繰り返す認知症を呈した患者様に対し,セラピストからの対応を変えることにより会話数・会話時間に変化がみられるのか検討した.アセスメントから繰り返し話す行動は,患者様がセラピストの目を見ながら会話し,返答に対して笑顔となる様子が観察されており,セラピストの注目量のばらつきにより会話内容に偏りが出ているのではないかと考えた.さらに注目の中でも,①頷き,②目線を合わせる,③目線の高さを合わせる,④返答数が関与していると推察した.介入方法は各期6日間実施し,会話の中でも割合の多かった2つの会話内容に対し,介入期Ⅰでは,『頷き有り』・『目線合わせ有り』は継続し,『目線の高さ合わせ無し』と『返答数は一言(減少)』とし,注目量を減少させた.介入期Ⅱでは,『頷き無し』・『目線合わせ無し』・『目線の高さ合わせ無し』・『返答数は「そうなんですね(消去)」のみ』とし,注目量を更に減少させた.その結果,繰り返しの多い会話内容の会話数・会話時間は,介入期Ⅰで変化は見られなかったが介入期Ⅱでは減少し,反対に繰り返しの無い会話内容に増加がみられた.これらのことから,認知症者の同じ話を繰り返す行動は,対応者からの注目によって維持されている可能性が示唆された.