抄録
経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位(Motor Evoked Potential: MEP)の変化を指標にして,遠隔筋随意収縮および関節肢位変化により生じる促通動態を,橈側手根伸筋(ECR)と橈側手根屈筋(FCR)を対象筋として検討した。被検者は健常男性8名であった。運動課題は咬筋の一過性の随意筋収縮で,収縮開始から100,200,300,600msecの各時間遅れ(delay)で磁気刺激を与え,それぞれの筋からMEPを誘発した。また,この条件下で前腕肢位変化を回内位と回外位の2つで行った。咬筋の収縮のないRESTの状態でのMEP記録を基準に,各条件下で誘発されたMEPの振幅および潜時の変化を調べた。その結果,咬筋の収縮開始からの時間経過に伴う効果は,REST時のMEPと比較して,振幅においてはECRで回内位・回外位ともにdelay100,200,300にて有意(各p < 0.05)に増大した。また,FCRでは回内位ですべてのdelayにおいて有意(p < 0.05)な増大を示したが,回外位ではdelay100,200のみで有意(p < 0.05)に増大した。潜時については,ECR,FCRともに回内位と回外位の両肢位delay100,200で有意(p < 0.05)に短縮した。肢位変化による特異的な変化として,FCRにおいて各delayとも回内位でより大きな促通を示した(p < 0.05)。また,ECRでは,回外位でより大きな促通傾向を示したが有意な増大ではなかった。これらの結果から,ある筋に促通効果を及ぼすこの2つの方法は,脊髄の運動細胞のみならず,錐体路細胞にも促通効果を生じさせることが明らかになった。特に,遠隔筋促通に関しては,その中枢性ファシリテーションにおけるタイミングの重要性が再確認され,肢位変化に関しては,神経細胞の興奮性に対する肢位特異性があることが示唆された。