抄録
本研究の目的は筋出力感覚の入力過程や記憶形態について検討することである。そのための手段として,心理学領域の言語的な記憶研究の成果である系列位置効果に関する仮説を用いた。本研究は健常成人を対象とした3つの実験から構成される。実験1では0.5kg〜4kgの範囲の5種類の砂嚢をランダムな順序で提示し,後に再生を求めて系列位置効果について検討した。実験2では主として砂嚢の重さを判断する段階での誤差を測定し,実験3では砂嚢による重さの系列を0.5kg〜7kgまでの7項目に増やして再度,系列位置効果を検討した。結果として,本研究における3実験では筋出力感覚の記憶における系列位置効果は見出されなかった。むしろ系列的な筋出力感覚の入力時点では各被験者の保有する“スキーマ関数”に照らして判断するトップ・ダウン過程が機能しており,再生時にも各人のスキーマが強い影響を与えることが示唆された。