2024 年 51 巻 4 号 p. 101-111
【目的】腰部脊柱管狭窄症(Lumbar Spinal Stenosis:以下,LSS)患者における筋力強化と有酸素運動の併用の有効性を調査することである。【方法】LSS患者をストレッチ群32例,それに加えて筋力強化・有酸素運動を行った複合群31例にランダム化割り付けした。介入は2ヶ月間,週1回の通院とホームエクササイズとした。検討項目は,腰痛・下肢痛・しびれの程度,Oswestry Disability Index(以下,ODI)Score,LSS症状・生活の質(Quality of Life:以下,QOL)スケールなどとした。【結果】複合群はストレッチ群と比較し,腰痛・下肢痛・しびれの程度,ODI Score,LSS症状・QOLスケールにおいて顕著な効果を認めなかった。補足的な分析における時間の主効果では,腰痛,しびれ,LSS症状スケールにおいて両群共に有意な改善を示し,複合群では下肢痛の改善も良好であった。【結論】LSS患者に対する筋力強化・有酸素運動の併用による明らかな有効性を認めなかった。経時的な変化では,筋力強化・有酸素運動の併用の有無に関係なく,効果を認めた項目が複数存在した。
Objective: The purpose of this study was to determine the effectiveness of muscle strengthening and aerobic exercise in patients with lumbar spinal stenosis (LSS).
Methods: Patients with LSS were randomly allocated to a stretching group (n=32) and a combined group that performed muscle strengthening and aerobic exercise in addition to stretching (n=31). The frequency of visits to the hospital was once per week, and self-exercise was performed at home. The intervention period was 2 months. Outcomes included subjective evaluations of back pain, leg pain, and numbness and scores on the Oswestry Disability Index (ODI), a LSS symptom scale, and a quality of life scale (QOL).
Results: No clear improvements in back pain, leg pain, numbness, ODI score, LSS symptom scale, and LSS QOL scale were observed in the combined group compared to the stretching group. The main effect of time in the post-hoc analysis showed significant improvements in both groups in back pain, numbness and the LSS symptom scale. A combined group was more effective in improving leg pain.
Conclusion: Muscle strengthening and aerobic exercise do not appear to be effective treatments for patients with LSS. Longitudinal results suggest that some outcomes are positive regardless of the type of exercise therapy.
腰部脊柱管狭窄症(Lumbar Spinal Stenosis:以下,LSS)は加齢に伴う退行性変化を基盤として発生し,高齢化が進む本邦において,その患者数はますます増加すると予測されている。日本人におけるコホート研究では40歳から79歳までの対象で推定365万人が罹患し,特に70歳代が多いと述べられている1)。つまり,高齢者が急増している本邦において,LSSは最も注意すべき疾患の一つであると考えられる。
LSSの治療としては,症状が重度の場合には手術療法,それ以外は保存療法が適応となる1)。保存療法は,薬物療法,ブロック療法,物理療法,装具療法,運動療法が存在する。中でも,運動療法は有害事象や経済的な負担が少ないことからLSS診療ガイドラインでも推奨されている1)。運動療法については,複数の前向き研究が存在し,疼痛や身体機能,日常生活活動動作(Activities of Daily Living:以下,ADL),生活の質(Quality of Life:以下,QOL)の改善に効果があると述べられている2–4)。実施方法に関しては,専門家の指導の下で行う運動療法がホームエクササイズよりも有効であるとの報告が存在する2)4)。近年のMinetamaら5)による報告では,監視下の理学療法は手術と比較し,1年後においても同等の効果が得られ,軽度から中等度の症例に対する第一選択の治療としての重要性を示している。
運動療法の種類について,先行研究ではストレッチ,筋力強化,有酸素運動,体幹安定化運動,腰椎屈曲運動などの複数を組み合わせて実施し,さらに物理療法や徒手療法なども含め,包括的に実施している報告が殆どである2–5)。近年のOzdenら6)のシステマティックレビューでは,効果的な運動の種類として有酸素運動などについて述べているが,根拠が不十分であるとの結論に至っている。その理由として,運動の種類について検証した研究が乏しいことを指摘している。
本邦の運動器診療最新ガイドライン7)では,ストレッチと筋力強化を推奨しているが,その根拠となる報告は示されていない。LSSの理学療法に関する国内の実態調査8)によると,運動の種類としてはストレッチと筋力強化が85~90%と最も多く,有酸素運動が約半数以上で行われていたと述べられている。
また,Dinennoら9)は,加齢に伴うサルコペニアや骨粗鬆症,ADL・QOL低下の予防への,筋力強化と有酸素運動の併用の重要性を指摘している。筋力強化と有酸素運動については,各々の単独介入では無く,両者の併用を支持する報告も多い10–12)。LSS患者の多くは高齢であり,主症状である神経性間欠跛行は高度の活動制限をもたらすため,老化の過程で生じる身体的な衰退を加速させる可能性が大きい。その解決策として様々な手段が考えられるが,特に筋力強化および有酸素運動の重要性が述べられている13)。従って,LSS患者に対しても,筋力強化と有酸素運動を併用することは,単独介入よりも有益な結果が得られる可能性があると考えられる。
一方,運動種目別の身体活動量として,ストレッチは2.3 METs,筋力強化2.8~3.5 METs,有酸素運動4.8~6.8 METsとの報告がある14)。つまり,高齢者が大多数を占めるLSS患者に対しては,身体活動量の低いストレッチが最も導入しやすい運動療法の一つであると推察される。
以上を踏まえて,LSSに対する運動の種類については,様々な介入の中でも,まずは国内の臨床現場で一般的に実施され,高齢者にも導入しやすいストレッチを基本とし,さらに筋力強化と有酸素運動を併用した効果を検証することで,臨床的に意義のある結果が得られると考えられる。
さて,LSSの運動療法に関する報告は,国外のものがほとんどである6)。国外の報告では,一般的に人種や宗教,文化,保険制度などのバイアスの影響が大きいと考えられる。そこで,国内論文のみで調査すると,運動療法の効果を検証した報告はMinetamaら4)5)以外には見当たらない。彼らの一連の報告では,包括的な理学療法の有効性について示しているが,全て大学病院1施設の患者が対象である。つまり,国内論文のみで判断すると,報告数が極めて乏しく,対象にも偏りがあるため,運動療法の根拠として必ずしも十分であると言えない。従って,対象を一部の施設からだけでは無く,一般病院やクリニックも含めた全国規模の多機関にすることで,本邦における運動療法の効果を示すことにも繋がる。
本研究の目的は,LSS患者に対する効果的な運動療法の種類に関して多機関共同研究にて調査することである。そこで本調査では,ストレッチのみの群(以下,ストレッチ群)と,それに加えて筋力強化・有酸素運動を組み合わせた群(以下,複合群)を比較検証し,LSS患者における筋力強化・有酸素運動の効果を示すこと,さらに運動療法の有効性も国内初となる全国規模の調査で明らかにすることとした。
適応基準は,2019年6月より2020年4月までに初診または運動療法以外の治療にて通院中のLSS患者とした。診断は整形外科医によりLSS診療ガイドライン1)の基準に準じて行われた。年齢は60歳から89歳まで,通院は1週間に1回の頻度で,2ヶ月間可能な者とした。除外基準は,馬尾型,脊柱手術の既往,認知機能障害,下肢に末梢神経障害を認める者,腰部以外の骨・関節障害による痛みを認める者,脳神経系障害の後遺症を認める者,Danielsの徒手筋力検査法にて3未満の下肢筋力低下を認める者,オピオイド鎮痛薬の投薬を受けている者,骨粗鬆症を有する者とし,手術の絶対的適応1)とされる重度症例は除外した。データ収集は,和歌山県立医科大学附属病院紀北分院(和歌山県),船橋整形外科(千葉県),浜脇整形外科リハビリセンター(広島県),慶友整形外科病院(群馬県),白庭病院(奈良県),近江整形外科(青森県),富良野協会病院(北海道),済生会長崎病院(長崎県),名古屋市立大学医学部附属西部医療センター(愛知県),えにわ病院(北海道),北千葉整形外科(千葉県),篠路整形外科(北海道),苑田第三病院(東京都),かわむら整形外科(北海道)の計14施設で行った。適応基準に該当し,除外基準に抵触しない者を本研究の対象とした。
2. 方法1)割付け方法および中止基準参加の同意が得られた場合,共同研究者ではない理学療法士1名がエクセル(Microsoft Excel 2010)のRAND関数により作成した乱数表を用いてストレッチ群または複合群へのランダム化割り付けを全施設分行った。
中止基準は①明らかに症状が悪化した場合,②1週間に3日,1日に1セットの運動の実施が困難になった場合,③オピオイド鎮痛薬の服用,トリガーポイント注射やブロック注射を受けた場合とした。中止基準に該当した際は脱落とした。
2)介入内容介入は全て担当理学療法士が行った。担当理学療法士は,日本理学療法士協会の旧新人教育プログラムを修了し,さらに5年以上の臨床経験を有する者とした。介入方法については,参加施設による合同会議を計4回開催し,全参加施設のコンセンサスを得た上で決定した。また,担当者用の手順書を作成し,施設間で統一するように配慮した。
ストレッチ群はストレッチとADLに関する患者教育,複合群はストレッチ群の内容に加え,筋力強化と有酸素運動を行った(図1)。患者教育は“腰を反らせないこと”をポイントとし,疼痛回避のための歩容やADL(高所の物を取る,洗濯物を干すなど)に関して初回介入時にパンフレットを用いて実施した。ストレッチは,股関節屈筋群(図1a-1),腰背部筋群(図1a-2, 3),および胸椎後弯の軽減(図1a-4)を目的とした4種類の運動とし,1セットを各10秒10回,1日に3セットを目安に指導した。
(a)ストレッチの内容:基本的には4種類(1~4)の運動とし,実施方法は①~③の中から,本人が最もやりやすいものを選択し,指導した.(b)筋力強化と有酸素運動の内容:筋力強化は3種類(1~3)とし,実施方法は①~③の中から選択する.有酸素運動は,本人の好みも考慮し,実施内容を決定した.
複合群には,ストレッチ群の内容に加え,筋力強化と有酸素運動をパンフレットの内容を参考に個々に応じて指導した。筋力強化は腹筋群(図1b-1),殿筋群(図1b-2),腰背筋群(図1b-3)に対して計3種類を行った。各運動は1セットを1~5秒保持,10~30回,1日に3セットを目安とした。運動負荷は3段階とし(①軽度,②中等度,③重度),正しい姿勢で代償動作がなく,円滑に運動が遂行できること,自覚的運動強度は修正Borgスケールにて「ややきつい」とすること,自宅で継続して実施できること,を条件に担当理学療法士が決定した。保持時間や回数も上記の条件を踏まえて,規定の範囲内で徐々に増やすように指導した。有酸素運動は自転車またはウォーキングとし,継続可能な方法を選択した(図1b-4)。自覚的運動強度は,修正Borgスケールにて「ややきつい」を目安とし,1日1回,10~15分程度から開始し,段階的に時間を増やすように指導した。なお,修正Borgスケールは,運動負荷強度を設定するために使用し,神経症状が悪化した場合には直ちに運動を中止した。
ストレッチ,筋力強化,有酸素運動はホームエクササイズを原則とし,実施状況はチェックシートに毎日記録するように指導した。通院時は,チェックシートを確認しながら,運動方法,運動回数・強度の調整を行った。介入期間は2ヶ月間とし,週1回程度の頻度での通院とした。
目標対象数はG*power3.1(Heinrich-Heine-University, Free software)を用いて2標本t検定を想定して算出した。本研究では参考となる先行研究のデータが無かったため,一般的に推奨されている効果量d=0.50,α=0.05,検出力80%を使用し15)16),各群64例であった。
3)調査項目患者特性として年齢,性別,身長,体重,症状側,罹病期間,就労・同居者の有無,Brief Scale for Evaluation of Psychiatric Problems in Orthopedic Patients(以下,BS-POP),薬物治療・運動療法実施の有無,運動習慣・コルセット使用の有無は,開始時に診療録および医療面接より調査した。
メインアウトカムは,腰痛・下肢痛・しびれの程度Numerical Rating Scale(以下,NRS)17),修正版Oswestry Disability Index(以下,ODI)Score18),LSS症状・QOLスケール19)20)とした。
サブアウトカムは,5回立ち上がりテスト(Timed Stands Test-5:以下,TST-5)21),筋力,関節可動域(Range of Motion:以下,ROM),リハビリテーション(以下,リハビリ)満足度とした。筋力は,徒手筋力測定器(酒井医療,モービィMT-100)にて測定した。測定項目は股関節屈曲22)・伸展23),体幹屈曲24)・伸展25)とし,先行研究に準じて行った。測定時間は等尺性最大収縮にて3秒,回数は各3回とした。データ解析は3回の平均値(N/m)とし,股関節屈曲・伸展は左右の平均値を代表値とした。ROMは股関節の屈曲・伸展・外転・内転・内旋(背臥位)・Straight Leg Raise(以下,SLR)とした。ROM測定は日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会による関節可動域表示ならびに測定法に準じて行った。測定者は伸展とSLRは2名とし,その他は1名とし,左右の平均値を代表値とした。リハビリ満足度は理学療法の内容と効果についてNRSを用いて調査した。
アウトカムの収集では,担当以外の理学療法士が行うこと,手順書に則って実施すること,対面での実技研修会を実施し,測定手技や注意点について施設間で統一することを配慮した。
調査時期は開始時・開始1・2ヶ月後の計3回とし,リハビリ満足度とチェックシートによる運動の実施状況の確認は2ヶ月後のみ行った。データの整理・解析は,治療やアウトカムの収集に関与しない共同研究者1名が行った。
4)統計解析以上の全解析はIntention-to-treatに準じて脱落例も含めて調査した。統計ソフトはR2.8.1(CRAN, freeware)・SPSS version23.0(日本IBM)を用い,有意水準は5%とした。
5)倫理的配慮本研究は弘前大学大学院保健学研究科倫理委員会(2019-012),日本理学療法士学会倫理委員会(H30-003)の承認を受け,臨床試験登録(UMIN 000037826)の上,実施された。また,ヘルシンキ宣言に則り,全対象者には同意説明書を用いて,研究の意義,目的,方法,個人情報の取り扱い,同意撤回の自由などの説明を行い,同意書のサインにより研究参加への意思を確認した。
基準に該当した63例(男性30例,女性33例,平均年齢72.6±5.6歳)を本研究に登録した。ランダム化割り付けにより,ストレッチ群は32例,複合群は31例であった。脱落例は,初回から1ヶ月までの間でストレッチ群5例,複合群6例,1ヶ月から2ヶ月までの間で両群1例ずつ認め,最終的にはストレッチ群26例,複合群24例となった(図2)。
治療前の基本情報については表1に示した。RCTでは選択バイアスが生じている可能性もあり,本研究ではサンプルサイズに集積症例が満たないため,第2種の誤りのことも考慮し,群間での比較検討を行った。両群間での有意差は認めなかった。
ストレッチ群(n=32) | 複合群(n=31) | p値 | 検出力 | |
---|---|---|---|---|
年齢(歳) | 72.3±4.8 | 72.9±6.3 | 0.81 | 0.07 |
性別(例) | 男:15 女:17 | 男:15 女:16 | 0.38 | 0.14 |
身長(cm) | 157.0±8.1 | 159.2±8.1 | 0.78 | 0.18 |
体重(kg) | 59.6±10.8 | 57.5±9.6 | 0.44 | 0.13 |
症状側(例) | 右:15 左:8 両:8 | 右:13 左:13 両:5 | 0.44 | 0.24 |
罹病期間(月) | 40.4±124.4 | 26.6±35.9 | 0.76 | 0.09 |
就労の有無(例) | 有:9 無:23 | 有:12 無:19 | 0.86 | 0.05 |
同居者の有無(例) | 有:27 無:5 | 有:25 無:6 | 0.29 | 0.18 |
患者用BS-POP(点) | 15.3±3.0 | 13.8±2.7 | 0.14 | 0.45 |
治療者用BS-POP(点) | 9.5±1.4 | 9.3±1.8 | 0.78 | 0.09 |
薬物治療の有無†(例) | 有:23 無:9 | 有:23 無:8 | 0.44 | 0.12 |
運動療法実施の有無†(例) | 有:6 無:26 | 有:5 無:26 | 0.35 | 0.16 |
運動習慣の有無(例) | 有:16 無:16 | 有:14 無:17 | 0.53 | 0.10 |
コルセット使用の有無(例) | 有:5 無:27 | 有:6 無:24 | 0.18 | 0.27 |
( )内は単位.
年齢,身長,体重,罹病期間,BS-POPは平均±標準偏差,その他は人数.
BS-POP:Brief Scale for Evaluation of Psychiatric Problems in Orthopedic Patients.
† LSSの症状に対して,医師より処方され実施していたか否か.
2つの群と治療経過の交互作用が認められた項目はROMの股関節屈曲のみであり(表2),時期については両群共に各水準間での有意差は認めず,群間では2ヶ月後のみ有意差を認めた。効果量は0.22(小)であった。運動実施率(%)はストレッチ群62.5,複合群71.0であった。
ストレッチ群 | 複合群 | (P値) | 初回vs | 1ヶ月後vs | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
(平均±標準偏差) | (平均±標準偏差) | (p値) | (p値) | |||||||||||
初回 | 1ヶ月後 | 2ヶ月後 | 初回 | 1ヶ月後 | 2ヶ月後 | 時期 | 治療 | 時期*治療 | 1ヶ月後 | 2ヶ月後 | 2ヶ月後 | 検出力 | ||
腰痛 NRS | 4.6±2.6 | 3.3±2.3 | 2.9±2.5 | 3.6±2.4 | 2.9±2.3 | 2.5±2.3 | <0.01 | 0.23 | 0.48 | <0.01 | <0.01 | 0.62 | 0.09 | |
下肢痛 NRS | 4.1±2.9 | 3.3±2.6 | 3.1±2.3 | 4.8±3.3 | 3.9±3.2 | 3.0±2.6 | <0.01 | 0.65 | 0.31 | 0.36 | <0.01 | 0.41 | 0.13 | |
しびれ NRS | 3.8±3.0 | 2.8±3.0 | 2.6±2.5 | 3.9±2.8 | 3.1±3.1 | 2.3±2.1 | <0.01 | 0.97 | 0.53 | <0.01 | <0.01 | 0.39 | 0.05 | |
ODI score (%) | 26.1±12.7 | 21.2±12.2 | 23.1±17.8 | 22.8±13.0 | 22.7±14.4 | 22.9±14.7 | 0.06 | 0.91 | 0.22 | 0.06 | 0.24 | 0.99 | 0.24 | |
LSS 症状スケール | 36.5±21.9 | 34.8±20.1 | 32.2±21.2 | 35.1±17.4 | 31.8±18.4 | 33.4±18.4 | <0.01 | 0.99 | 0.51 | <0.01 | <0.01 | 0.99 | 0.15 | |
LSS QOLスケール | 54.6±19.0 | 59.1±21.2 | 62.2±22.5 | 55.1±19.2 | 57.3±21.9 | 54.1±22.0 | 0.70 | 0.57 | 0.23 | 0.99 | 0.99 | 0.99 | 0.23 | |
TST-5 (s) | 12.4±6.9 | 10.8±4.4 | 10.2±3.9 | 10.5±3.3 | 10.2±4.4 | 9.1±3.4 | <0.01 | 0.46 | 0.40 | 0.08 | <0.01 | 0.50 | 0.14 | |
筋力(N・m) | ||||||||||||||
股関節屈曲 | 4.6±2.4 | 5.5±2.4 | 5.3±2.5 | 5.0±2.0 | 5.4±2.2 | 5.1±1.8 | <0.01 | 0.77 | 0.63 | <0.01 | 0.48 | 0.67 | 0.22 | |
伸展 | 3.8±1.6 | 4.3±1.7 | 4.2±1.6 | 3.8±1.8 | 4.7±2.3 | 4.1±1.9 | <0.01 | 0.75 | 0.49 | <0.01 | 0.47 | 0.22 | 0.15 | |
体幹屈曲 | 6.6±3.3 | 7.6±2.9 | 7.3±3.1 | 6.5±2.8 | 7.1±3.2 | 7.0±2.8 | 0.16 | 0.86 | 0.82 | 0.19 | 0.61 | 0.99 | 0.39 | |
伸展 | 9.0±4.3 | 9.8±4.3 | 9.4±3.5 | 8.7±3.1 | 10.3±3.6 | 10.1±3.6 | 0.03 | 0.71 | 0.20 | 0.03 | 0.21 | 0.99 | 0.07 | |
ROM(°) | ||||||||||||||
股関節屈曲 | 117.0±11.1 | 118.7±10.5 | 117.0±11.6 | 115.6±10.7 | 117.0±10.7 | 119.8±10.7 | 0.12 | 0.05 | 0.03 | 0.77 | 0.12 | 0.99 | 0.09 | |
伸展 | 12.0±5.7 | 13.1±6.8 | 12.5±6.6 | 13.9±6.4 | 14.1±7.3 | 14.4±6.8 | 0.53 | 0.52 | 0.89 | 0.99 | 0.99 | 0.99 | 0.84 | |
外転 | 31.6±10.0 | 31.5±7.2 | 33.4±9.2 | 31.6±11.5 | 30.6±9.8 | 31.6±9.7 | <0.01 | 0.52 | 0.73 | 0.19 | <0.01 | 0.09 | 0.76 | |
内転 | 15.2±5.5 | 14.8±5.2 | 15.9±5.4 | 14.0±7.1 | 13.0±4.8 | 14.8±4.4 | 0.74 | 0.11 | 0.71 | 0.99 | 0.99 | 0.99 | 0.40 | |
内旋 | 26.3±12.8 | 27.0±12.9 | 26.1±13.0 | 27.6±15.2 | 27.8±13.4 | 30.8±12.4 | <0.01 | 0.86 | 0.89 | 0.18 | <0.01 | 0.99 | 0.91 | |
SLR | 72.2±17.2 | 71.7±13.5 | 72.5±11.7 | 72.9±15.8 | 73.7±11.2 | 79.4±11.5 | <0.01 | 0.37 | 0.09 | 0.95 | <0.01 | 0.15 | 0.18 | |
満足度 NRS | 理学療法の内容 | — | — | 7.8±2.4 | — | — | 7.1±2.4 | — | — | — | — | — | — | — |
(最高10,最低0) | 理学療法の効果 | — | — | 7.6±2.3 | — | — | 6.5±2.4 | — | — | — | — | — | — | — |
運動実施率(%) | — | — | 62.5 | — | — | 71.0 | — | — | — | — | — | — | — | |
20例/32例 | 22例/31例 |
( )内は単位.有意確率:p<0.05.
NRS: Numerical Rating Scale, ODI: Oswestry Disability Index, LSS: Lumbar Spinal Stenosis, QOL: Quality of Life, TST-5: Timed Stands Test-5, ROM: Range of Motion, SLR: Straight Leg Raise.
本研究ではサンプルサイズに集積症例が満たないため,第2種の誤りのことも考慮し,時期に有意差がみられた項目の効果量を確認した。交互作用は認めなかったが,時期のみ有意であった項目の効果量は表3に示す。1ヶ月後または2ヶ月後のどちらか一方でも効果量(中)以上であった項目は,複合群のみでは,下肢痛,筋力の股関節伸展・体幹伸展,ROMのSLRであり,両群共通では,腰痛,しびれ,LSS症状スケール,TST-5,筋力の股関節屈曲であった。ストレッチ群のみでは,効果量(中)以上の項目は存在しなかった。
ストレッチ群 | 初回vs | |
---|---|---|
1ヶ月後 | 2ヶ月後 | |
腰痛 NRS | 0.57(大) | 0.51(大) |
下肢痛 NRS | — | 0.29(小) |
しびれ NRS | 0.32(中) | 0.39(中) |
LSS 症状スケール | 0.24(小) | 0.41(中) |
TST-5 | — | 0.44(中) |
筋力 | ||
股関節屈曲 | 0.41(中) | — |
伸展 | 0.29(小) | — |
体幹 伸展 | 0.18(小) | — |
ROM | ||
股関節外転 | — | 0.25(小) |
内旋 | — | 0.08(ほとんど無し) |
SLR | — | 0.12(小) |
複合群 | 初回vs | |
1ヶ月後 | 2ヶ月後 | |
腰痛 NRS | 0.47(中) | 0.32(中) |
下肢痛 NRS | — | 0.56(大) |
しびれ NRS | 0.29(小) | 0.61(大) |
LSS 症状スケール | 0.33(中) | 0.20(小) |
TST-5 | — | 0.42(中) |
筋力 | ||
股関節屈曲 | 0.30(中) | — |
伸展 | 0.45(中) | — |
体幹 伸展 | 0.57(大) | — |
ROM | ||
股関節外転 | — | 0.07(ほとんど無し) |
内旋 | — | 0.21(小) |
SLR | — | 0.52(大) |
効果量r(大>0.5>中>0.3>小>0.1>ほとんど無し).
NRS: Numerical Rating Scale, TST-5: Timed Stands Test-5, LSS: lumbar spinal stenosis, ROM: Range of Motion, SLR: Straight Leg Raise.
治療のMCID達成数・達成率は,全ての項目で両群間において有意差を認めなかった。
1ヶ月後(vs初回) | p値 | 2ヶ月後(vs初回) | p値 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
ストレッチ群(n=32) | 複合群(n=31) | ストレッチ群(n=32) | 複合群(n=31) | |||
NRS | ||||||
腰痛 | 2 (6.2) | 3 (9.7) | 0.49 | 16 (50.0) | 15 (48.4) | 0.80 |
下肢痛 | 5 (15.6) | 5 (16.1) | 0.84 | 16 (50.0) | 16 (51.6) | 0.80 |
しびれ | 3 (9.3) | 3 (9.7) | 0.85 | 13 (40.6) | 17 (54.8) | 0.10 |
LSS 症状スケール | 7 (21.9) | 9 (29.0) | 0.36 | 9 (28.1) | 8 (25.8) | 0.72 |
LSS QOLスケール | 1 (3.1) | 1 (3.2) | 0.80 | 1 (3.1) | 3 (9.7) | 0.20 |
ODI | 14 (43.8) | 12 (38.7) | 0.34 | 13 (40.6) | 10 (32.3) | 0.30 |
達成数(達成率%).
MCID: Minimal Clinically Important Differences, NRS: Numerical Rating Scale, LSS: Lumbar Spinal Stenosis, QOL: Quality of Life, ODI: Oswestry Disability Index.
2ヶ月後のMCID達成率(%)は,ストレッチ群・複合群の順で,腰痛では50.0・48.4,下肢痛では50.0・51.6,しびれでは40.6・54.8であった。また,LSS症状スケールは,28.1・25.8,ODIは40.6・32.3であった。
本研究の結果より,複合群はストレッチ群と比較し,腰痛・下肢痛・しびれ,ODI score,LSS症状・QOLスケールの各種メインアウトカムに関して,明らかな有効性を示さなかった。補足的な分析における時間の主効果では,複合群では下肢痛に加え,筋力の股関節伸展・体幹伸展,ROMのSLRの改善が良好であった。
ROMの股関節屈曲は,複合群において有意な改善を示した唯一の項目であったが,検出力・効果量は共に小さい結果であった。Mortonら28)は,全可動範囲で実施する筋力強化運動は筋力の改善に加え,柔軟性の改善にも影響することを述べている。本研究にて複合群が実施した筋力強化運動は,一定の肢位を保持する等尺性収縮で主に実施しており,先行研究のような全可動範囲ではない。さらに,ROMの中で有効性を示した項目は股関節屈曲のみであったこと,検出力・効果量が小さかったことを踏まえると,筋力強化運動が柔軟性に与えた影響はわずかであったと推察できる。
経時的な変化の中で,複合群では筋力の股関節伸展・体幹伸展,下肢痛,ROMのSLRにおいて効果量(中)以上の改善を示していた。股関節伸展・体幹伸展の筋力強化は,複合群において特に重視した運動であり,1ヶ月後の早期改善に関与した可能性はあるが,2ヶ月後には有意な改善を認めなかった点を考慮すると,効果としては限定的であると考えられる。下肢痛は,介入開始2ヶ月後において効果量(大)の改善を示していた。LSSの運動療法に関する効果の機序としては,体幹や骨盤周囲筋の活性化が腰椎・骨盤帯の安定性や協調性の改善,アライメントの調整に作用し,神経圧迫が緩和され,下肢痛・しびれが軽減すると報告されている29)。つまり,LSSの下肢痛軽減には腰椎・骨盤帯アライメントの関与が大きいと考えられるが,本研究では調査不足であり,メカニズムの詳細は不明である。ROMのSLRは,前述した股関節屈曲と同様に,今回の介入内容を考慮すると,作用機序は明らかではなく,効果は僅かであったと考えられる。
筋力強化について,Muら3)は一般的な運動(腹筋運動など)と体幹安定化運動を比較し,体幹安定化運動では4週間後のJOA scoreおよび歩行能力が有意に良好であったと報告している。体幹安定化運動は,plank,side plank,bridge,push-upなど高い負荷量の運動が複数含まれている。Marchandら30)は,術前の筋力強化・有酸素運動に関する効果を検証し,術後の疼痛や体幹筋力・持久力,歩行能力などのパフォーマンスの改善が良好であったと述べている。筋力強化としては,5種類の体幹・下肢の運動を4段階の負荷で設定し,スクワットなどの荷重下での高負荷メニューも多数含めている。以上の報告と比較すると,本報告における筋力強化は負荷強度としては不十分であった可能性が考えられる。
また,複合群では筋力強化に加え有酸素運動も実施しており,有酸素運動による影響も考慮しなければならない。有酸素運動の有効性に関して,Puaら31)は身体サポート付きのトレッドミル歩行と自転車エルゴメーターを比較検討した結果,両群間に有意差は無く,両群ともに効果が認められたと述べている。負荷強度としては,初めの1~2週間は本人が快適と感じる程度,残りの4~5週間はBorg Scaleで15「きつい」とし,運動時間は目標として30分を設定している。本研究では負荷強度を「ややきつい」,運動時間は10~15分とし,それ以上の目標値は設定していない。つまり,運動負荷量としては先行研究と比較して不十分であった可能性が推察される。
さらに,通院頻度について,Minetamaら32)は週1回よりも2回の方がLSS重症度,腰痛,下肢痛,身体機能の改善において良好であったと述べており,本研究における週1回では十分ではない可能性が考えられる。
以上を踏まえると,LSSに対する筋力強化・有酸素運動の併用について,ストレッチのみの介入と比較し,疼痛や身体機能などの改善を期待できる可能性はあるが,現時点では十分な根拠が得られていない。特に,筋力強化と有酸素運動における負荷強度の設定,通院頻度については今後の課題である。
2. 本邦における運動療法の有効性本研究では経時的な変化において,両群ともに腰痛,しびれ,LSS症状スケール,TST-5,筋力の股関節屈曲で良好な結果が得られた。2ヶ月後の有効症例達成率の結果では,腰痛,下肢痛,しびれで約半数,LSS症状スケールやODIでは約3~4割の症例で効果を認めていた。以上の結果は,運動療法の実施により,一定数の症例で効果が期待できることを示している。
本邦の先行研究では,Minetamaら4)5)33)の一連の報告が存在する。対象は軽度から中等度のLSS患者とし,理学療法士による監視下での運動療法を週2回・6週間実施し,6週間後および1年後における良好な結果を示している。本研究でも同様の重症度の症例に対して監視下での運動療法を週1回・8週間実施している。Minetamaら4)5)33)の報告と比較し,介入内容が異なること,長期調査を行っていないこと,を除くと大きな相違は存在しない。つまり,理学療法士による監視下の運動療法については,Minetamaら4)5)33)の報告を支持する結果が得られたと考えられる。
また,本報告にて強調すべきポイントは,LSSの運動療法について効果検証を行った本邦初の多機関共同研究である点である。協力施設は公立や民間の総合病院のほか,単科の整形外科専門病院やクリニックなど全国の14施設を対象とした。以上のように,一般病院も含めた全国規模の多施設を対象とすることは,本邦における運動療法実施の一般的な根拠にも繋がる。従って,本邦のLSS診療ガイドライン1)でも示されている通り,LSSに対する運動療法は,有害事象のリスクが低く,低コストであり,重症例以外では選択肢の一つとして配慮すべきと考える。
さらに,本研究ではADLに関する患者教育を両群に対して実施した。患者教育は,症状に対する理解度や予防意識を高め,心理的サポートの面でも有益であると報告され9)34),本研究においても腰痛,しびれ,QOLなどの改善に影響した可能性も否定できない。しかし,患者教育は運動療法と比較すると科学的根拠に乏しく,現状では運動療法による影響が大きいと判断するのが妥当であると考えられる。
以上をまとめると,患者教育の関与は否定できないものの,軽度から中等度のLSS患者に対する監視下の運動療法は,本邦においても一定数の症例で効果が認められ,治療の選択肢としての可能性が推察された。特に,本研究ではストレッチ群においても複合群と同程度の効果が得られており,複数の運動実施が困難な高齢者に対してはストレッチのみから開始することを考慮しても良いかもしれない。
3. 本研究の限界本研究にはいくつかの限界がある。最も大きな問題はサンプルサイズが小さいことである。本研究ではCOVID-19の大流行が影響し,両群ともに目標症例数の約半数程度に留まり,検出力は非常に低い結果であった。また,フォローアップ期間が短期のみであったことも課題の一つである。加えて,本研究ではホームエクササイズの実施状況が重要であると考えている。両群ともに実施率は60~70%程度と比較的高値であったが,実施状況を運動チェックシートのみで確認しているため,その結果の解釈には十分に注意すべきである。以上の限界も考慮すると,筋力強化・有酸素運動の併用についての有効性は,更なる追加調査が必要である。
本研究ではLSSに対する筋力強化・有酸素運動の併用について明らかな有効性を示せなかった。時間の主効果では,筋力強化・有酸素運動が効果的であった項目が一部で認められ,疼痛やQOLなどの主要な項目では運動療法の種類に関わらず,有益な結果が得られた。本報告はLSSに対する運動療法を調査した本邦初の多機関共同研究である。全国規模で実施した点は価値が大きく,本邦の運動療法実施において参考にすべきデータの一つになると考えられる。運動の種類については更なる検証が必要である。
本研究にご協力いただいた患者様,本研究の実施に際してご指導をいただきました日本腰痛学会 前理事長 紺野愼一先生,福島県立医科大学 関口美穂先生,日本腰痛学会の理事・評議員の皆様,協力施設の医師・リハビリテーションスタッフの皆様,船橋整形外科クリニックの望月良輔先生,南オーストラリア大学大学院の三根幸彌先生,徒手筋力測定器を無償提供いただいた酒井医療株式会社の皆様には深謝いたします。
本研究は一般社団法人日本運動器理学療法学会の事業として実施した。
開示すべき利益相反はない。