理学療法学
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短報
航空自衛隊に対する現地調査,環境調整,腰痛予防教室の実施と8か月後フォローアップ時の変化
高木 佑也 紺谷 朋輝川島 直之小多 裕之赤﨑 千紘久保田 雅史
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2026 年 53 巻 1 号 p. 56-61

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要旨

【目的】本研究は,航空自衛隊の隊員に対し,理学療法士が一次予防として「現地調査」「環境調整」「腰痛予防教室」を行い,8か月後の健康状態の変化を検討することを目的とした。【方法】対象は自衛隊員77名(男:71名,女:6名,年齢:33.4±10.0歳)とした。現地調査による職場環境のフィードバックと,腰痛予防教室において腰痛予防に関する知識提供と体操指導を実施した。介入前と8か月後にアンケートを用いて労働時間や睡眠時間,仕事のパフォーマンス(%),日本整形外科学会腰痛評価質問票(Japanese Orthopaedic Association Back Pain Evaluation Questionnaire:JOABPEQ),腰痛,背中や腰の疲労感などの症状を聴取した。統計解析は,Mann–Whitney U検定を用いて教室実施前後の各評価項目を比較し,有意水準は5%とした。【結果】教室実施前と比較して8か月後に腰痛,背中や腰の疲労感が有意に低下し,仕事のパフォーマンス(%)が有意に向上していた。環境調整に関しては,8か月後の時点で改善が実施されていなかった。【結論】航空自衛隊員に対する腰痛予防教室は,腰痛の軽減や仕事のパフォーマンス向上に寄与する可能性が示された。

Abstract

Objective: This study evaluated the effectiveness of a primary prevention program—including a field survey, environmental adjustments, and a lower back pain prevention class conducted by physiotherapists—on reducing lower back pain and improving work performance among Japan Air Self-Defense Force personnel over an eight-month period.

Methods: Seventy-seven personnel (71 males, 6 females; mean age 33.4±10.0 years old) participated. Workplace ergonomics were assessed through a preliminary field survey, and feedback was provided to reduce lumbar strain. Participants attended a prevention class that included education on low back pain and guided exercises. Questionnaires were administered before and eight months after the intervention, covering working hours, sleep, work performance (percentage), the Japanese Orthopaedic Association Back Pain Evaluation Questionnaire (JOABPEQ), and symptoms of low back pain and fatigue. Statistical analyses were performed using the Mann–Whitney U-test with significance set at p<0.05.

Results: Significant reductions in low back pain and fatigue were observed at follow-up, along with a significant improvement in work performance. However, environmental adjustments were not implemented.

Conclusion: A structured prevention program led by physiotherapists can reduce low back pain and enhance work performance among Air Self-Defense Force personnel, highlighting the value of educational and exercise-based interventions.

はじめに

腰痛は労働者における主要な健康問題であり,厚生労働省の「業務上疾病発生状況等調査」によれば労災疾病の約6割を占める1。腰痛は休業や労働生産性低下を介して社会的損失をもたらすため,厚生労働省は「職場における腰痛予防対策指針」において,事業者が職場環境改善や腰痛予防体操の実施を行う責務を有することを明示している2

自衛隊員は,日常的に疾病予防や健康増進に努める必要があるが,生活習慣病の有病率は同年代の一般男性より高いことが報告されている3。さらに,訓練や任務に伴う身体的・精神的負荷に加え,高い喫煙率や受診控えといった健康行動上の課題も指摘されており3,腰痛発症や重症化のリスクを高める要因となり得る。生活習慣病と腰痛の関連は一般成人でも報告されており4,軍隊を対象とした先行研究でも同様の傾向が示されている58。したがって,自衛隊という特殊な勤務環境に即した健康支援が求められる。

健康課題への対応には,ハイリスクアプローチと集団全体を対象とするポピュレーションアプローチがある。腰痛予防に関しては,介護労働者を対象とした研究で,集団的な体操指導が腰痛軽減に有効であることが報告されており6,自衛隊員においても同様のアプローチが有効と考えられる。また,米軍でも腰痛は主要な健康問題であり,心理社会的教育が受診頻度の減少に寄与することが示されている578。一方,日本の自衛隊員を対象に,理学療法士が腰痛予防を行った報告は乏しい。本研究では,航空自衛隊隊員に対し,理学療法士が「現地調査」「環境調整」「腰痛予防教室」を実施し,8か月後の健康状態の変化を検討することを目的とした。現地調査は作業姿勢や作業環境を観察し,腰部負担要因を把握する取り組みであり,厚生労働省の指針2が示す「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」に基づく評価を行った。また,環境調整は現地調査の結果を基に,机や椅子の高さ調整,作業手順の見直し,補助具の導入などを提案する活動であり,産業保健の実践的アプローチとして位置付けた。

対象および方法

対象は航空自衛隊A基地に勤務する20歳代から50歳代の隊員77名であり,男性71名,女性6名,平均年齢は33.4±10.0歳であった(表1)。本研究は金沢大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(倫理審査番号:2022-225(111077))。

表1 対象者特性

年齢(歳)33.4±10.0
男性/女性(人)71/6
身長(cm)170.2±6.0
体重(kg)69.5±9.6
BMI (kg/m2)22.5±6.7

値は平均±標準偏差.※:「男性/女性(人)」はそれぞれの性別に該当する人数を示す.

1. 現地調査

腰痛予防教室の実施に先立ち,約6か月前に理学療法士がA基地を訪問し,事務部,調理部,整備部において現地調査とヒアリングを行った。調査では,各部署の作業姿勢や作業空間,机や椅子・作業台の高さ,重量物の取り扱い方法などを観察し,「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」の視点から腰部負担要因を抽出した。調査結果は写真付き資料として整理し,基地衛生担当者に報告した。

2. 腰痛予防教室

腰痛予防教室は理学療法士が講師を務め,1回約60分間の集合指導形式で実施した。内容は,腰痛の原因やメカニズムに関する講義,不良姿勢の影響に関する指導,良姿勢やパワーポジションの実技指導,さらに腰痛予防運動の習慣化に関する指導であった。実技では「これだけ体操®」(立位腰椎伸展運動)を中心に行い,理学療法士が各参加者の動作を確認し,必要に応じてフォームを修正した。

3. 評価項目

介入前後にはアンケート調査を実施し,過去1週間の労働時間と睡眠時間,World Health Organization Health and Work Performance Questionnaire(WHO-HPQ)による仕事のパフォーマンス(%)の評価9,日本整形外科学会腰痛評価質問票(Japanese Orthopaedic Association Back Pain Evaluation Questionnaire:以下,JOABPEQ)による腰痛の頻度と程度,さらに腰痛や疲労感を含む8項目の身体症状を0~5点の6段階で自己評価した。

4. 職場環境改善の提案とフォローアップ

腰痛予防教室終了後には,現地調査の結果を踏まえて,机やシンクの高さ調整,作業手順の見直し,昇降台や運搬用具の導入など,職場環境改善に関する提案を基地衛生担当者に行った。さらに,8か月後に再訪問し,改善の実施状況を確認した。

5. 統計解析

統計解析は,Shapiro–Wilk検定で正規性を確認した上で,正規性を満たす場合には対応のないt検定を,満たさない場合にはMann–Whitney U検定を用いた。有意水準は5%とした。

結果

Shapiro–Wilk検定の結果,解析対象データはいずれも正規性を満たさなかったため,介入前後の比較にはMann–Whitney U検定を用いた。

現地調査では,事務部,調理部,整備部において机やシンクの高さ調整,昇降台車の導入など,作業姿勢の改善につながる環境調整を提案した(図1)。腰痛予防教室の実施前には,隊員の約60%が「仕事中に腰が痛くなりそうな作業がある」と回答しており,その内訳として重量物の運搬,斜面での草刈り,長時間のデスクワーク,タイヤ交換作業などが挙げられた。

図1 現地調査における各部署の作業環境の課題例

A:事務部では,キーボードが30 cm以上奥に配置され,机の高さが床から70 cmと低い.B:調理部では,調理台の高さが床から80 cmと低い.C:調理部では,シンク底が床から45 cmと深い.D:整備部では,ドラムブレーキ交換や,バッテリー交換は重量物を把持しながら前傾姿勢となる.E:整備部では,ドラムブレーキ交換や,バッテリー交換作業時に昇降台車が使用されていない.

腰痛の有訴率は実施前72%から実施8か月後で61%へと減少した。背中や腰の疲労感は実施前82%から実施後66%へと低下した。腰痛の強さ(0~5点)は実施前2.2±1.7点に対し,実施後1.5±1.5点へと有意に低下し,背中や腰の疲労感も2.5±1.5点から1.8±1.6点へと有意に低下した(表2)。また,仕事のパフォーマンスは実施前73.1±18.9%から実施後78.9±17.2%へと有意に上昇していた(図2)。一方で,その他の自覚症状,睡眠時間,労働時間には有意な変化は認められなかった。JOABPEQでは,疼痛関連障害,腰椎機能障害,歩行機能障害,社会生活障害,心理的障害のいずれにおいても有意な変化はみられなかった(表3)。環境調整として提案された机やシンクの高さ調整,昇降台の導入などの環境改善内容については,8か月後にフォローアップを行ったが,財務部門や事務部門との協議は進んでいたものの,実際の物理的改善は実施されておらず,遵守率は0%であった。

表2 腰痛予防教室実施前後のアンケート結果

腰痛予防教室 
実施前
腰痛予防教室 
実施8か月後
p値
腰痛(0~5点)2.2±1.71.5±1.50.023*
背中や腰の疲労感(0~5点)2.5±1.51.8±1.60.019*
仕事のパフォーマンス(%)73.1±18.978.9±17.20.028*
脚のしびれ(0~5点)0.7±1.10.4±0.80.121
肩こり(0~5点)2.3±1.61.7±1.70.660
膝の痛み(0~5点)1.0±1.50.6±1.20.120
精神的ストレス(0~5点)1.8±1.41.4±1.40.166
睡眠時間(h)6.6±0.96.6±0.70.309
労働時間(h)8.0±0.67.9±0.50.181

値は平均±標準偏差,*: p<0.05.

図2 仕事のパフォーマンスの腰痛予防教室実施前後の比較

*: p<0.05.

表3 日本整形外科学会腰痛評価質問票JOABPEQ腰痛予防教室実施前後の各項目の変化

腰痛予防教室 
実施前
腰痛予防教室 
実施8か月後
p値
疼痛関連障害(0–100点)79.2±30.989.1±21.60.19
腰椎機能障害(0–100点)94.7±16.896.3±10.30.50
歩行機能障害(0–100点)93.9±19.897.3±11.90.45
社会生活障害(0–100点)88.8±15.891.7±15.90.85
心理的障害(0–100点)67.8±18.574.4±17.80.10

値は平均±標準偏差.JOABPEQ: Japanese Orthopaedic Association Back Pain Evaluation Questionnaire.

考察

本研究は,航空自衛隊員を対象に,理学療法士が現地調査,環境調整,腰痛予防教室を組み合わせて実施し,8か月後に追跡調査を行った初めての報告である。その結果,腰痛や背中や腰の疲労感が有意に減少し,自己評価による仕事のパフォーマンスが向上した。一方で,現地調査に基づく環境調整は提案されたものの,物理的な改善には至らなかった。したがって,今回認められた効果は主として教育的・行動的介入によるものであると考えられる。

先行研究によれば,自衛隊員の腰痛有訴率は自衛隊病院症例で28.3%10,陸上自衛隊で25~37%11とされる。本研究で得られた72%という値はこれらより高い割合であり,他職種の42~65%1213をも上回っていた。現地調査では重量物の運搬や長時間の不良姿勢作業が多く,これらが腰痛リスクに強く関与している可能性が示唆された14

また,本研究における教育的介入の効果は,厚生労働省の腰痛予防指針2や,「これだけ体操®」の有効性を示した大規模ランダム化比較試験15の結果と一致していた。自衛隊員の職務特性に応じた教育的支援の重要性は,先行研究1617でも指摘されており,本研究はその有効性を裏付けるものといえる。

一方で,現場への環境改善提案は行われたが,8か月後の時点で実際の改善は1件も実施されていなかった。介護職場ではリフトや福祉用具の導入が腰痛予防や労災補償費削減に有効であると報告されており18,自衛隊においても組織的な支援体制の構築が必要である。理学療法士の助言を実効性あるものとするには,経営層や他部門を含めた組織的連携が不可欠と考えられる。

さらに,JOABPEQのスコアには有意な変化がみられなかった。体操や姿勢教育といった行動変容型の介入は,継続的な支援がなければ効果が限定的になる可能性がある。山口ら19は,週1回のストレッチ指導を4週間継続することでJOABPEQ全項目が改善したと報告しており,腰痛予防には反復的かつ継続的な介入が必要であると考えられる。

また,腰痛には身体的因子に加え,精神的ストレスや認知的要因も関与することが知られている20。中国軍新兵では精神的健康度の低さが報告されており21,規律性の高い自衛隊においてもメンタルヘルスとの関連は無視できない。米軍では心理社会的教育が腰痛治療頻度の減少につながったとの報告もあり8,今後,日本の自衛隊への応用が期待される。

本研究の限界として,部署ごとの業務負担や個人の身体機能,Quality of Life(QOL),労働生産性などを十分に評価できていない点が挙げられる。今後は,部署特性や個人差を考慮した多角的な評価と継続的フォローアップが必要である。また,腰痛予防体操の理解度の差を考慮し,パンフレット配布や勤務時間内での体操実施など,組織的な取り組みが求められる。さらに,環境改善提案が実際に実行されなかったことから,財務的・制度的制約を踏まえた上での多部門連携が今後の課題である。

結論

本研究は,航空自衛隊員を対象として8か月間の追跡を行い,理学療法士が現地調査に基づく環境評価と腰痛予防教室を実施した効果を検証した初めての報告である。その結果,腰痛および背中や腰の疲労感が有意に軽減し,仕事のパフォーマンスが向上する可能性が示された。一方で,環境改善の提案は行われたものの,実際の物理的改善には至らず,行動定着や職場環境の変革には制度的・組織的制約が存在することが明らかとなった。これらの結果から,産業リハビリテーションの実践においては,教育的介入の有効性を踏まえるとともに,継続的な支援体制や組織的な連携の構築が不可欠であると考えられる。

利益相反

本研究に関連した開示すべき利益相反はない。

文献
 
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