理学療法学
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研究論文(原著)
在宅脳卒中者における歩容評価表と転倒の関連性
吉澤 康平 亀山 裕斗芦澤 遼太本田 浩也武 昂樹山下 翔太髙橋 英美吉本 好延
著者情報
キーワード: 脳卒中, 歩容評価表, 転倒
ジャーナル オープンアクセス HTML
電子付録

2026 年 53 巻 2 号 p. 95-102

詳細
要旨

【目的】本研究の目的は,歩容評価表と在宅脳卒中者の転倒との関連を明らかにすることであった。【方法】回復期病棟を退院した在宅脳卒中者106名を対象とした。退院時に歩容評価表を評価し,6カ月間の転倒の有無との関連をロジスティック回帰分析により検討した。Receiver Operating Characteristic(以下,ROC)解析で転倒予測精度を検討した。【結果】転倒者は36名であった。歩容評価表を説明変数,転倒の有無を目的変数,年齢とBody Mass Index,Functional Independence Measureを交絡因子としたロジスティック回帰分析の結果,歩容評価表が転倒と関連する因子として抽出された。ROC解析では,歩容評価表のArea Under the Curveは0.755,Berg Balance Scale(以下,BBS)は0.771であった。【結論】歩容評価表は,在宅脳卒中者の転倒と関連しており,BBSと同程度の予測精度を示すことが明らかになった。

Abstract

Objective: In this study, we aimed to clarify the relationship between the Gait Assessment Scale (GAS) and falls among community-dwelling stroke survivors.

Methods: In this study, we involved a total of 106 stroke survivors who had been discharged from a convalescent rehabilitation ward, assessed them at discharge using the GAS, (developed by Nagawa, representing an observational gait assessment tool that evaluates the degree of gait abnormality in individuals with stroke), and monitored the occurrence of falls for six months post-discharge. We examined the association between the GAS results and the occurrence of falls using logistic regression analysis, and evaluated the predictive accuracy of the GAS for falls using Receiver Operating Characteristic (ROC) curve analysis compared with the results of the Berg Balance Scale (BBS). We expressed predictive accuracy as the Area Under the Curve (AUC).

Results: During the follow-up period, 36 participants experienced falls. Logistic regression analysis, with the GAS as an independent variable, the presence or absence of falls as the dependent variable, and age and Body Mass Index as covariates, revealed that the GAS results were significantly associated with falls. ROC analysis demonstrated that the AUC of the GAS was 0.755, comparable to that of the BBS (AUC=0.771).

Conclusion: Our results suggest that the GAS results are associated with falls and GAS could be a useful tool for predicting the risk of falling in stroke survivors.

はじめに

脳卒中者においては,入院中から転倒リスクを評価し,退院後の転倒を予防するための早期対応が求められる。脳卒中者を対象とした先行研究では,10 m歩行速度1,Timed Up and Go test(以下,TUG)2,片脚立位時間3,Four Square Step Test4,Falls Efficacy Scale International56などの評価指標が転倒予測に有用であることが報告されており,これらは簡便かつ短時間で実施可能なスクリーニング指標として臨床で広く活用されている。一方,これまでの研究で最も多く用いられてきた評価指標がBerg Balance Scale(以下,BBS)である68。BBSは14項目から構成される包括的なバランス評価であり,簡便なスクリーニング指標と比べて一定の所要時間を要するものの,転倒予測精度に優れるだけでなく,各項目の結果を基に治療方針の検討にも活用できることから,臨床的有用性の高い評価とされている。しかし,BBSは主として座位および立位での課題で構成されており,歩行動作に関する評価は限定的である。このため,歩行中に多発する転倒リスクの把握や,歩行場面を想定した転倒予防策の立案には制約がある。

本研究では,歩行中の転倒リスクの把握に応用可能な歩行観察評価指標として,奈川が開発した歩容評価表に注目した。歩容評価表は,非麻痺側の歩幅減少や足部クリアランス低下など,脳卒中に特有の歩容の異常に関する25項目から構成され,歩容を多面的に評価できる点が特徴である9。脳卒中者の歩容異常と転倒の関連は実験室レベルで複数の報告があるものの1012,臨床現場において歩容評価表と実際の転倒との関連を検証した研究はない。したがって,歩容評価表と退院後の転倒との関連を明らかにすることは,転倒リスクの早期把握に加え,歩行場面を想定した具体的な治療や指導に直結する可能性がある。

本研究の目的は,歩行可能な脳卒中者を対象に,退院時の歩容評価表と退院後の転倒の関連性を明らかにすることであった。

対象および方法

1. 対象

対象は,2020年10月1日から2024年2月5日までに,浜松市リハビリテーション病院の回復期リハビリテーション病棟を退院した在宅脳卒中者とした。包含基準は,発症前から自立歩行が可能であり,かつベースライン測定時に10 m以上の歩行が可能な者(日常生活で使用している杖や歩行器など歩行補助具・装具の使用は可とし,第三者による介助を必要としない),歩行障害に影響を与える脳卒中以外の疾患や症状を有していない者(パーキンソン病や脳性麻痺など神経筋疾患,痛みや顕著な可動域制限を伴う変形性股関節症・変形性膝関節症,神経症状や筋力低下を伴う側弯症や脊柱管狭窄症などの筋骨格系疾患など),日常生活に著しい影響を及ぼす失語症や半側空間無視など高次脳機能障害を有していない者,Mini-mental State Examination(以下,MMSE)において18点以上を取得している者とした13。除外基準は,研究への同意が得られなかった者,追跡期間中に脳卒中の再発,施設への入所,または死亡により6カ月間の追跡が不可能であった者,主要データに欠損もしくは不整合が認められた者とした。

2. 方法

研究デザインは前向きコホート研究であった。

1)評価項目

本研究では浜松市リハビリテーション病院の退院時をベースラインとした。ベースライン評価では対象者の基本属性として年齢,性別,Body Mass Index(以下,BMI),脳卒中の種類(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血),麻痺側,発症から退院日までの日数,回復期リハビリテーション病棟の入院期間,上肢・手指・下肢のBrunnstrom Recovery Stage(以下,BRS),Functional Independence Measure(以下,FIM)の運動項目・認知項目・合計点,MMSEを診療録より抽出した。また,身体機能評価としてBBS,10 m歩行テスト(最大歩行速度),歩容観察評価として歩容評価表による評価を行った。

アウトカムは退院後6カ月間の転倒の有無とした。

歩容評価表の評価の手順は以下のとおりである9。まず,対象者の歩行をビデオカメラにより撮影した。被検者には,10 m歩行路を快適歩行速度で1往復してもらい,中間5 mの歩行をカメラで撮影した。カメラは三脚に水平となるように固定し,三脚の高さは各対象者の大転子の高さとなるように設定した。カメラは,10 m歩行路の中央から側方4.5 mと,歩行路から1 m離れた延長上の2カ所に設置した。対象者が歩行路を1往復する様子を,2カ所から同時に撮影した。歩行補助具または下肢装具を必要とする対象者に対しては,日常生活あるいは理学療法中の屋内歩行時に使用しているものを,そのまま撮影時にも用いた。転倒の危険性に配慮して,歩行撮影時は,対象者の横に理学療法士1名が付き添った。撮影された映像はパーソナルコンピュータに取り込み,理学療法士3名がビデオ映像をもとに歩容評価表の評価基準に準じて採点を行い,合計点を歩容評価表合計点として記録した。25項目で構成される歩容評価表は,各項目を1–2点,1–3点,または1–4点で採点され,合計点は25–71点となり,点数が高いほど正常な歩容からの逸脱が大きいと判断される。本評価表は映像による視診に基づく定性的な観察評価であり,関節角度や時間的指標を直接測定するものではない。詳細な項目や採点基準については,補遺1を参照されたい。本評価表は脳卒中者を対象に,検者間信頼性と10 m歩行時間および10 m歩行歩数との基準関連妥当性が検証されており,検者間信頼性は級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficients: ICC)が0.84,歩容評価表と10 m歩行時間の相関係数は0.84,歩容評価表と10 m歩行歩数は0.77であった9

BBSは,歩容評価表による転倒予測精度との比較を目的として測定した。BBSはバランス機能を評価するための指標であり,14項目から構成され,各項目は0–4点の5段階で評価される。合計点は最大56点で,高得点ほどバランス能力が高いことを示す14。脳卒中者を対象とした研究において,BBSは高い信頼性および妥当性を有する評価法として報告されている15

2)転倒の追跡調査

転倒の定義については,Gibsonらによる定義を採用し,「他人による外力,意識消失,脳卒中などによる急性の麻痺,てんかん発作などを除き,不注意により同一平面またはそれよりも低い平面へ倒れること」とした16

転倒状況の調査は退院から6カ月間とし,転倒カレンダーと電話調査の併用により追跡した。転倒カレンダーは,調査期間分のカレンダー様式を用意し,退院前日までに記載方法の説明を行った上で配布した。対象者には,転倒の有無に加えて,可能な範囲で転倒時の状況(日時,場所,動作)を記録してもらった。調査終了後,郵送にてカレンダーを回収した。電話調査は,退院3カ月後および6カ月後の2回実施し,カレンダー記載内容の確認および補足情報の収集を行った。

3)統計解析

退院後6カ月間に1回以上転倒を経験した対象者を転倒群,転倒がなかった対象者を非転倒群と定義した。転倒群と非転倒群におけるベースライン評価の比較には,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定,χ2検定を用いて行った。

次に,歩容評価表が転倒と関連するかどうかを判断するために,歩容評価表を説明変数,転倒の有無を目的変数,年齢とBMI, FIMを交絡因子として,ロジスティック回帰分析(強制投入法)を実施し,オッズ比および95%信頼区間(95% Confidence Interval:以下,95%CI)を算出した。交絡因子の選定において,年齢とBMIの他にFIMとBBS,10 m歩行テストを考慮したが,FIMとBBS,10 m歩行テストは歩容評価表と転倒の媒介因子となり多重共線性が生じる可能性があったため,媒介分析により多重共線性の可能性を確認した。なお,媒介分析はブートストラップ法により実施した。ブートストラップ法では,間接効果の95%CIが0を含まない場合,間接効果は有意であるとされている。媒介分析の結果,FIMの間接効果は0.025(95%CI=−0.017–0.071),BBSが0.134(95%CI=0.056–0.238),10 m歩行テストが0.091(95%CI=0.016–0.256)であった。そのため,BBSと10 m歩行テストは間接効果が有意であり,多重共線性の可能性があったため,交絡因子から除外した。

さらに,歩容評価表25項目のうち,転倒群と非転倒群で有意差のある項目を抽出するために,歩容評価表のすべての項目に対してMann-WhitneyのU検定を行った。

最後に,転倒予測精度の検証を目的として,歩容評価表の合計点とBBSの合計点について,Receiver Operating Characteristic(以下,ROC)解析を行い,Area Under the Curve(以下,AUC)と95%CIを算出した。

統計解析はSPSS Statistics version29(IBM社)を用いて,有意水準は5%とした。

4)倫理的配慮

本研究はヘルシンキ宣言に基づき,聖隷クリストファー大学および浜松市リハビリテーション病院の倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号:20028-02, 23-51)。また,対象者には研究の目的,内容について説明し,口頭および書面により同意を得た。

結果

1. 対象者の追跡

包含基準に該当した対象者は151名であった。このうち,研究への同意が得られなかった者22名,同意後に研究継続を中止した者3名,追跡調査が実施できなかった者12名,データに明らかな不備があった者8名を除外し,最終的な解析対象者は106名となった(図1)。

図1 対象者のフローチャート

2. 転倒状況

解析対象者106名のうち,退院後6カ月間に1回以上転倒を経験した者は36名(転倒率34.0%)であった。転倒件数は合計74件であり,最も多かったのは歩行中が24件であり,そのほかの転倒状況としては起立および着座時が12件,段差・階段昇降時が8件,立位動作中が6件,移乗動作中が3件,その他または状況不明が21件であった。

3. 転倒群と非転倒群の比較

転倒群と非転倒群におけるベースライン評価の群間比較の結果を表1に示す。転倒群は非転倒群と比較して有意に高齢であり,BMIは低値を示した(p<0.05)。さらに,転倒群は非転倒群と比較して発症から退院までの日数および回復期リハビリテーション病棟の入院期間が長期であった(p<0.05)。BRSは上肢,手指,下肢のいずれにおいても転倒群が非転倒群よりも重度であった(p<0.05)。加えて,FIMの運動項目および合計点,BBSはいずれも転倒群が非転倒群よりも低値を示した(p<0.05)。歩行機能に関しては,転倒群が非転倒群よりも10 m歩行テストの時間が延長しており,歩容評価表の点数は高値を示した(p<0.05)。

表1 対象者のベースライン評価の結果

項目単位全体
n=106
非転倒群
n=70
転倒群
n=36
p値
年齢a,164.9±12.563.2±12.468.2±12.20.048
性別(男/女)c(68/38)(45/25)(23/13)0.968
Body Mass Indexa,1kg/m222.7±2.823.2±2.921.8±2.20.013
脳卒中の種類(脳梗塞/脳出血/くも膜下出血)c(55/44/7)(36/30/4)(19/14/3)0.841
麻痺側(右/左)c(54/52)(34/36)(20/16)0.496
発症から退院までの日数a,193.1±34.586.9±35.5105±29.30.01
回復期リハビリテーション病棟の入院期間a,167±33.461.1±33.978.3±29.80.011
Brunnstrom Recovery Stage
上肢b,26(4.75–6)6(5–6)5(3–6)0.001
手指b,26(5–6)6(5–6)5(3.25–6)0.001
下肢b,25(5–6)6(5–6)5(4–5.75)0.005
Functional Independence Measure
運動項目a,185.5±5.486.9±4.682.9±60.001
認知項目a,133±2.433.2±2.232.5±2.70.177
合計点a,1118.5±6.6120.1±5.6115.4±7.50.001
Mini-mental State Examinationa,128.3±2.228.3±2.328.3±2.10.483
Berg Balance Scalea,150.4±6.752.7±4.145.8±8.20.001
10 m歩行テストa,112.3±11.28.8±5.919.1±15.40.001
歩容評価表a,132.5±9.229.9±7.537.4±10.20.001

a 対応のないt検定,b Mann-WhitneyのU検定,c χ2検定.

1平均値(±標準偏差),2中央値(四分位範囲).

4. 歩容評価表と転倒の関連

歩容評価表を説明変数,転倒の有無を目的変数,年齢とBMI,FIMを交絡因子として,ロジスティック回帰分析(強制投入法)を実施した結果,歩容評価表が転倒と有意に関連する因子として抽出され,オッズ比1.087,95%CI 1.019–1.159を示した(表2)。

表2 ロジスティック回帰分析による歩容評価表と転倒の関連性

変数Bオッズ比95%信頼区間有意確率
歩容評価表0.831.0871.019–1.1590.012
年齢0.311.0310.989–1.0750.154
BMI−0.1260.8810.734–1.0580.177
FIM−0.190.9810.896–1.0740.681
Constant−0.361

BMI: Body Mass Index, FIM: Functional Independence Measure.

モデルχ2検定p<0.01, Hosmer–Lemeshow検定=0.181, 判別的中率=70.8%.

目的変数(非転倒,0;転倒,1).

説明変数(歩容評価表) 交絡因子(年齢;BMI;FIM).

5. 転倒群と非転倒群で有意差がみられた歩容評価表の項目

転倒群と非転倒群の歩容評価表の各項目における群間比較の結果を表3に示す。歩容評価表の各項目においては,「麻痺側初期接地」,「麻痺側立脚中期 骨盤の側方変位」,「麻痺側立脚終期と前遊脚期 股関節伸展」,「麻痺側立脚終期と前遊脚期 足関節底屈の減少」,「麻痺側立脚終期と前遊脚期 慎重さ」,「麻痺側立脚時間」,「麻痺側への重心移動」,「麻痺側遊脚初期から遊脚中期の膝関節屈曲」,「麻痺側遊脚初期での外旋」,「麻痺側遊脚中期 体幹側方傾斜」,「麻痺側遊脚中期での骨盤挙上」,「麻痺側遊脚終期での骨盤回旋」,「非麻痺側歩幅」,「麻痺側歩幅」,「麻痺側クリアランス」,「杖の使用」の16項目が,非転倒群と比較して転倒群において有意に高いスコアを示した(p<0.05)。

表3 歩容評価表の各項目の転倒群と非転倒群の比較

項目単位全体
n=106
非転倒群
n=70
転倒群
n=36
p値
麻痺側初期接地 膝関節の屈伸1(1–1)1(1–1)1(1–1)0.961
麻痺側初期接地1(1–1)1(1–1)1(1–1)0.011
麻痺側荷重応答期~立脚中期 膝関節の屈伸1(1–1)1(1–1)1(1–2)0.605
麻痺側立脚中期 体幹1(1–1)1(1–1)1(1–1)0.089
麻痺側立脚中期 骨盤の側方変位1(1–2)1(1–1)1(1–2)0.011
麻痺側立脚中期 膝関節の屈伸1(1–1)1(1–1)1(1–1.75)0.339
麻痺側立脚終期と前遊脚期 股関節伸展1(1–2)1(1–1)2(1–2)0.001
麻痺側立脚終期と前遊脚期 足関節底屈の減少1(1–2)1(1–2)2(1–3)0.001
麻痺側立脚終期と前遊脚期 慎重さ1(1–2)1(1–1)2(1–3)0.001
麻痺側立脚時間1(1–2)1(1–1)2(1–2)0.001
麻痺側への重心移動1(1–2)1(1–1)2(1–2)0.001
麻痺側遊脚初期から遊脚中期の膝関節屈曲1(1–2)1(1–1.25)2(1–2)0.004
麻痺側遊脚初期での外旋1(1–2)1(1–2)2(1–2.75)0.001
麻痺側遊脚中期 体幹の前傾/後傾1(1–1)1(1–1)1(1–1)0.182
麻痺側遊脚中期 体幹側方傾斜1(1–2)1(1–1)1(1–2)0.001
麻痺側遊脚中期での骨盤挙上1(1–2)1(1–2)1(1–2)0.044
麻痺側遊脚中期での分回し1(1–2)1(1–1)1(1–2)0.063
麻痺側遊脚中期 過剰な足関節底屈1(1–1)1(1–1)1(1–1)0.079
非麻痺側への重心移動1(1–1)1(1–1)1(1–1)0.155
麻痺側遊脚終期での骨盤回旋1(1–2)1(1–1)1(1–2)0.018
非麻痺側歩幅1(1–2)1(1–2)2(2–3)0.001
麻痺側歩幅1(1–2)1(1–2)2(1–2)0.001
麻痺側クリアランス1(1–1)1(1–1)1(1–1.75)0.002
杖の使用1(1–1.25)1(1–1)1(1–2.75)0.001
歩隔1(1–1)1(1–1)1(1–1)0.321

中央値(四分位範囲).

6. 転倒予測精度

ROC曲線を用いた歩容評価表の合計点とBBSの合計点の転倒予測精度を表4に示す。歩容評価表の合計点とBBSの合計点は,それぞれ0.755(95%CI 0.661–0.849)と0.771(95%CI 0.672–0.869)であり,歩容評価表はBBSと同程度の予測精度を示した。また,それぞれの評価のカットオフ値および感度と特異度の結果について記す。歩容評価表はカットオフ値25.5点,感度91.7%,特異度50%であり,BBSはカットオフ値43.5点,感度44.4%,特異度97.1%であった。

表4 ROC曲線を用いた転倒予測精度

変数Area Under the Curve95%信頼区間
歩容評価表0.7550.661–0.849
Berg Balance Scale0.7710.672–0.869

考察

本研究の結果,退院時の歩容評価表が退院後の転倒と関連しており,歩容評価表を構成する複数の歩容の異常が転倒と関連していることが明らかになった。

具体的には,麻痺側クリアランス低下,麻痺側遊脚初期から遊脚中期における膝関節屈曲の減少,麻痺側立脚終期から前遊脚期にかけての足関節底屈の減少といった異常が転倒と関連していた。脳卒中者を対象に,3次元動作解析中に観察された転倒しそうになった場面を分析した先行研究では,つま先の引っ掛かりが転倒しそうになった原因として最も多かったことを報告している10。遊脚期のクリアランス低下は,膝関節屈曲の減少との関連が指摘されており17,さらに遊脚期の膝関節屈曲の減少は,足関節のプッシュオフの低下と関連することが報告されている18。これらの知見から,歩容異常は互いに連鎖的に影響し合い転倒リスクを高めると考えられ,先行研究は本結果を裏づけるものと示唆される。

また,本研究では,転倒群において麻痺側および非麻痺側の歩幅が短い対象者が多いことが明らかとなった。脳卒中者の歩行と転倒の関連を前向きに検討した先行研究では,転倒群において両側の歩幅が短縮していることが報告されており19,本結果と一致する。歩幅の短縮が転倒に関連していた一要因としては,前方への推進力の低下が考えられる。歩行中の推進力は,立脚後期の足関節底屈や股関節伸展を構成要素とするLeg extension angleと関連するが17,これらの動作が不十分である場合,推進力が減弱し重心が後方に変位しやすくなることで,後方に転倒する可能性が生じると考えられる10。したがって,歩幅の短縮と転倒との関連は運動学的にも妥当と考えられる。

一方,本研究では,転倒群において麻痺側への重心移動の制限と麻痺側立脚中期に骨盤の過大な側方変位という,一見相反する結果を認めた。脳卒中者は,麻痺側への重心移動を減少させることで側方安定性を確保する代償戦略とりやすく,転倒者の歩容は非転倒者と比較して側方重心移動が少ないことが報告されている20。一方で,転倒の直前には,過度に側方へ動揺することで,転倒につながることが示されている10。したがって,転倒群において両者が同時に認められたという本結果は矛盾しないと考えられる。

上記の結果を踏まえて,歩容評価表は退院後の転倒リスクを包括的に捉える有用な指標であると考えられる。また,歩容評価表の転倒予測精度は,既存の評価指標の中でも高い予測精度を示すBBSと,同程度の予測精度を示した点は本研究の強みである。ただし,同程度の予測精度を認めていても,両者を単純に代替的な指標とみなすことは適切ではない。本研究では,対象者の約4割が歩行中に転倒していた一方で,立位や座位での転倒も約3割を占めていた。このことは,歩行可能な脳卒中者においても多様な状況で転倒が生じうることを示している。すなわち,BBSは座位・立位課題を含む包括的なバランス機能を評価するのに適した指標であり,歩容評価表は歩行中に生じる特徴的な異常を抽出する指標として位置づけられる。両者は相互補完的であり,臨床においては転倒リスク評価の目的(歩行中の転倒,あるいは立位・移乗に伴う転倒)に応じて,スクリーニング指標と歩容評価表やBBSなどの詳細な評価を組み合わせて活用することが望ましいと考えられる。また,感度と特異度の結果から,転倒リスクが高い者を抽出する際に,歩容評価表は感度が高く特異度が低いことから偽陽性が多く,BBSは感度が低く特異度が高いことから偽陰性が多く抽出されることが示唆された。このことから臨床において,まず感度が高い歩容評価表により転倒リスクが高い者を幅広く抽出し,その後特異度が高いBBSを使用して転倒リスクが低い者を除くことで,偽陽性や偽陰性の者を少なく転倒リスクが高い者を抽出できる可能性がある。

本研究にはいくつかの限界がある。第一に,転倒の追跡期間が退院後6カ月に限定されており,転倒発生率を過小評価した可能性がある。先行研究の中には1年以上の追跡を行った報告もあり321,今後は複数の季節を含めた長期的な追跡調査が求められる。第二に,本研究は歩行可能な脳卒中者のみを対象としており,歩行困難例や介助を要する脳卒中者には結果を一般化できない。先行研究では,移動に介助を必要とする患者においても転倒リスクが高いことが報告されており22,本研究の知見はその集団に適用できない可能性がある。第三に,サルコペニアや低栄養など転倒関連因子を直接評価していない点である。脳卒中回復期患者ではサルコペニアの有症率が高く23,転倒リスクに影響を与える可能性がある24。本研究では年齢やBMIを調整しても歩容評価表と転倒の関連は独立して保持されているため,主結論の妥当性は一定程度支持されるものの,今後は骨格筋量や筋力,栄養指標を含めた解析が必要である。

結論

本研究により,歩容評価表は在宅脳卒中者の転倒と関連することが明らかとなった。歩容評価表の中のいくつかの項目は転倒との関連が認められ,歩容異常は互いに影響し合い転倒リスクを高めることが示唆された。また,歩容評価表はBBSと同等の転倒予測精度であることが示されたが,歩容評価表はBBSの代替指標ではないため,歩行中の転倒リスクの把握を目的として活用することが望ましいと考えられる。

謝辞

本研究のデータの収集にご協力いただいた浜松市リハビリテーション病院回復期リハビリテーション病棟のスタッフの皆様に深謝申し上げる。

助成

本研究は公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団2020年度(後期)一般公募「在宅医療研究への助成」の助成を受けて実施された。

利益相反

本研究における利益相反はない。

文献
 
© 2026 日本理学療法学会連合

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