本論文の目的は、企業家概念を秩序構築主体として再定位することを通じて、企業家活動を把握し、分析的に記述する理論的視座を獲得していくことにある。企業家研究は、企業家という概念の下で(営利/非営利を問わず)、イノベーションという現象を、主体の具体的行為の次元から分析を試みる、独自の理論的傾向を有する。しかし、企業家研究における構造的進化論への転回の下で、企業家概念は社会構造に進化を生み出す役割として定義され、変異を生み出す主体として矮小化されてきた。この構造的進化論への転回の下で企業家研究は、その研究関心が企業家の具体的行為からイノベーションを生み出す社会構造の分析に移り、企業家概念を用いることの理論的必要性が消失するだけでなく、研究領域としての独自性を見失うという理論的課題に直面してきた。この理論的課題に対して、近年、Steyaert(2007a)によって関係論的転回が図られている。この関係論的転回においては、新結合の遂行主体という企業家概念の持つ本来的な含意に立ち戻ることで、社会構造を前提とした秩序の(再)構築として、人々の具体的な行為の次元から分析していくことを目指している。本論文では関係論的転回における秩序構築の主体としての企業家という新たな理論的視座に基づき、一般住宅業界に新たな秩序を構築した株式会社千金堂の事例の分析的記述を行う。