本研究は、650年以上継続する能楽という日本の伝統文化を支える専門職「能楽師」の人材育成を事例に取り上げ、高度なスキルを継承・育成する専門職のキャリア形成のプロセスについて明らかにすることを目的とする。
能楽師の人材育成では、各流儀の師弟関係を基盤に指導育成が行われ、技能形成に応じた楽曲を舞台で披露するため、被育成者の技能発揮の状況や評価が明示され、専門職間で共有される。そして、能楽師のキャリア形成には、明確なキャリアの節目となる楽曲があること、キャリア形成のプロセスに応じた指導方法や能力発揮の場が選択されること、キャリア形成に応じて専門職同士の関係性を活用して多様な能力発揮の場を専門職自らが設定すること、という3つの特色があることが明らかになった。