2024 年 21 巻 p. 1-14
本稿の目的は、中堅・中小企業における人事施策の導入効果について企業調査を用いて探索的に検討することである。特に人事施策を導入してから効果をもたらすまでの時間に差がある可能性を議論したい。従業員のキャリア形成、労働時間管理、労使関係に関する人事施策を取り上げ、その導入時期を考慮して、従業員の労働意欲と改善提案に与える影響、さらに経営業績に与える影響を統計的に検討した。分析結果によれば、導入後に比較的短期で効果を発揮する人事施策も一部にあるものの、多くの人事施策は導入から一定の期間を経て効果を発揮することが確認され、人事施策の遅効性の存在が示唆された。その背景として、遅効性のある人事施策は導入された後、労使双方がすぐに使いこなすことができないが、人事施策の使い方に慣れることで徐々に効果を発揮したと解釈できる。加えて本稿では、遅効性のある人事施策であっても、なぜ導入が進まないかを考察した。一つの解釈は、中堅・中小企業が人事施策について長期的な展望を持てていないというものである。もう一つの解釈は、人事施策の効果は把握していても、資金も人材も長期的な計画を立てる余裕がないというものである。最後に、企業がこれらの改善を検討することで得られる潜在的な利益を示すことを提案した。