抄録
陸水の酸性化や生態系被害を引き起こす大気汚染物質である硫黄化合物の起源推定には,硫黄同位体比(δ34S)がよく用いられる。本研究では,陸水中の硫酸イオンのδ34S値の測定に適用できる簡易な硫酸イオンの現場捕集濃縮法を開発した。少量の陰イオン交換樹脂を入れたメッシュバッグを水中に係留するのみで,δ34S値の測定に必要な硫酸イオン量を短時間に捕集でき,多量の水試料や大きいサンプラーの運搬および長時間の滞在が難しい山岳地域や離島などの調査にも適している。本法を用いて調査した屋久島の渓流河川における非海塩性硫酸イオンの硫黄同位体比(nssδ34S)は,島の北東部(-3.9~+0.3‰)より西部および中央山岳部(+1.1~+7.5‰)で高い値を示した。大陸での石炭の燃焼により放出されたδ34S値の高い硫黄を含む空気塊が,島の西および北西から流入し,宮之浦岳(1936 m)をはじめとする急峻な山岳にぶつかることで,西部および中央山岳部にδ34S値の高い硫黄が沈着した可能性がある。