2020 年 81 巻 3 号 p. 205-221
山陰地方の沿岸部に位置する汽水湖の中海において,干拓予定地だった本庄水域を取り囲む2つの堤防のうち,森山堤防の一部開削が2009年5月に行われた。この開削が本庄水域の水質と魚介類相に与えた影響を,2004年から2014年にかけての毎月1回の定期水質調査と小型定置網捕獲物調査結果を用いて統計解析を行った。水質に関しては,開削により海水が流入しやすくなり,塩分成層が発達した。同時に底層の貧酸素化が強まり,かつその持続期間の長期化が進んだ。定置網捕獲物に関しては,開削後に海産魚の種数が大きく増加したが,1網あたりの全捕獲量の有意な増加はなかった。魚介類別に見ると,マアジ及びタイワンガザミの有意な増加が確認された。これは森山堤防の開削によって日本海から本庄水域に進入しやすくなったためと考えられた。クロソイ及びマハゼの捕獲量は減少した。これらは底生生活を好むため,本庄水域の底層の貧酸素化の影響を受けたものと考えられた。