2023 年 84 巻 1 号 p. 19-35
秋田県雄物川水系の渋黒川(玉川支流)(pH: 平均 2.98)において,2017年5月から2019年11月までレゼイナガレトビケラの生活史の調査を,1~2時間間隔の河川水温の自動記録と併行して実施した。渋黒川は,強酸性であるとともに,高温の温泉水が流入していたため,水温は温泉水の影響のない近傍の山地渓流より明らかに高く,冬季はその差がより顕著だった。本種は5月下旬から7月上旬には蛹化・羽化のピークが見られたが,蛹化はその後も10月中旬まで続いた。I~Vの全齢期の幼虫が4月から11月までほぼ連続的に出現しており,明瞭なコホートは確認できなかった。このように,本種は,渋黒川においては基本的に年1世代であると思われるが,同期性の低い(非同期的)生活環であった。現場の河川水温に準じて変動させた温度条件で飼育した蛹の発育零点は,仮の発育零点を使って算出した有効積算温量の最小偏差から6.8 ℃と推定された。幼虫の発育零点が蛹のそれと大差ないと仮定すれば,冬季でも河川水温は幼虫の発育零点を超える時間があると思われる。この特殊な水温レジームが,同期性の低い生活環の主因と思われる。