陸水学雑誌
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84 巻, 1 号
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原著
  • 佐藤 信也
    2023 年 84 巻 1 号 p. 1-18
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

     湖沼の透明度に対する溶解性汚濁物質の影響を把握するため,清澄な自然水で代表的な溶解性物質であるフミン物質に着目し,計算画像を目視する方法で濃度と透明度の関係を推計した。フミン酸とフルボ酸の濃度0~20 mgC L-1で既知の光吸収係数を用い,光源の入射角40 度で,水の分子散乱を一次で近似して,Secchi円板と背景の放射輝度を計算し,この画像を目視した透明度(以下,「CISD」という。)を測定した。フミン酸のCISDは,濃度ゼロで126 m,濃度0.0047 mgC L-1で78 m,0.005 mgC L-1で極小60 m,増加して0.02 mgC L-1で極大68 mとなり,濃度20 mgC L-1の0.28 mまで減衰した。フルボ酸も同様の傾向であった。この変化には,色の変化が見かけの明るさに影響する効果が関与していると考えられた。減衰する領域に限って区間を分割して関数近似を行ったところ,CISDに対する近似値の相対誤差の平均二乗平方根は,すべての区間で0.03以下であった。

  • 青谷 晃吉, 谷田 一三
    2023 年 84 巻 1 号 p. 19-35
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

     秋田県雄物川水系の渋黒川(玉川支流)(pH: 平均 2.98)において,2017年5月から2019年11月までレゼイナガレトビケラの生活史の調査を,1~2時間間隔の河川水温の自動記録と併行して実施した。渋黒川は,強酸性であるとともに,高温の温泉水が流入していたため,水温は温泉水の影響のない近傍の山地渓流より明らかに高く,冬季はその差がより顕著だった。本種は5月下旬から7月上旬には蛹化・羽化のピークが見られたが,蛹化はその後も10月中旬まで続いた。I~Vの全齢期の幼虫が4月から11月までほぼ連続的に出現しており,明瞭なコホートは確認できなかった。このように,本種は,渋黒川においては基本的に年1世代であると思われるが,同期性の低い(非同期的)生活環であった。現場の河川水温に準じて変動させた温度条件で飼育した蛹の発育零点は,仮の発育零点を使って算出した有効積算温量の最小偏差から6.8 ℃と推定された。幼虫の発育零点が蛹のそれと大差ないと仮定すれば,冬季でも河川水温は幼虫の発育零点を超える時間があると思われる。この特殊な水温レジームが,同期性の低い生活環の主因と思われる。

  • 木塚 俊和, 鈴木 啓明, 長谷川 祥樹, 濱原 和広, 三上 英敏
    2023 年 84 巻 1 号 p. 37-52
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

     国立公園に含まれ,土地利用のほとんどを森林が占める北海道東部の糠平ダム湖流域を対象に,平水時における河川水の溶存無機リン(DIP)濃度に対する地質の影響を明らかにすることを目的とした。流域河川14地点で成分別リン濃度を測定するとともに,DIP濃度と集水域の表層地質,土壌,植生及び地形を含む環境変量との関係を統計的に分析した。河川水のDIP濃度は火成岩に分類される第四紀の湖成堆積物の面積率と最も強い正の相関を示した。集水域に第四紀の湖成堆積物が分布する流域北部の河川でDIP濃度が有意に高く,その一部の河川では糠平ダム湖の環境基準値(全リンで0.01 mg L-1)を超過していた。また,河川水のDIP濃度はケイ酸態ケイ素(SiO2-Si)濃度と有意な正の相関を示し,岩石の風化の影響が示唆された。第四紀湖成堆積物の分布域では地下水を介したDIPの供給が河川水の高いDIP濃度に寄与している可能性が考えられた。

短報
  • 石飛 裕
    2023 年 84 巻 1 号 p. 53-64
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

     山陰地方の宍道湖には,暖候期に下流部の中海から遡上する海産魚と汽水魚と甲殻類がおり,多くの淡水魚,汽水魚,通し回遊魚,海産魚と甲殻類が生息する。これらの魚介類を対象とする定置網漁業などが盛んに行われていたが,1993年の冷夏多雨と1994年の猛暑渇水の異常気象を境に,ワカサギなど主要な対象魚の漁獲量が減少し漁業が衰退した。ところが,ネオニコチノイド系殺虫剤の使用が始まった1993年以降,宍道湖の動物プランクトンやオオユスリカなどの水底動物が激減し,これらを餌とするワカサギとニホンウナギの減少に繋がったことを示す研究が2019年に公表された。しかしながら,この2種とシラウオを除くその他の魚介類の変動との関係は示されていないので,宍道湖漁業協同組合に保管されている1979~2008年度までの定置網の漁獲資料から魚介類8種の漁獲量の変動を検討した。その結果,年度毎の変動は見られるものの,1995年度以降,ワカサギとニホンウナギとハゼ類の漁獲量は減少していた。同じく1995年度以降,エビ類の漁獲量は9~12月に減少しアミ類は1~3月に増加していた。これら魚介類の変動を,年毎の塩分と水温の変動と1993年から始まったネオニコチノイド系殺虫剤の使用から考察した。

資料
  • 安井 一人, 松村 勇育, 浅見 正人, 蔡 吉, 酒井 陽一郎, 石川 可奈子
    2023 年 84 巻 1 号 p. 65-74
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

     琵琶湖の東岸に位置する伊庭内湖の水草繁茂状況をよりよく理解するため,伊庭内湖の繁茂面積の季節変化をドローンと衛星データを用いて調査した。2021年の2月から12月の間に6回,ドローンで伊庭内湖を連続撮影し,合成画像(オルソモザイク画像)を作成した。作成した画像をもとにQGISにて水草を囲うようにポリゴンを作成し,水草繁茂面積および被覆率を算出した。調査範囲63 haのうち水草繁茂面積の最大値は36 haで,割合は57 %であった。水草繁茂面積を衛星観測で得られた正規化植生指数を用いて検出した場合と比較すると,正の相関(相関係数= 0.988, p < 0.01)が得られた。調査期間中の水草繁茂の変化は,5月から繁茂が始まり7月にかけて急激に増加し,8月にピークとなった後減少し,12月にはほとんど確認できなくなった。目視で確認された水草は主としてヒシ属(Trapa L.)およびホテイアオイ(Eichhornia crassipes)であった。8月のピーク時の第一優占種はヒシ属であったが,その後,ヒシ属がホテイアオイより先行して減少したため,12月の優占種はホテイアオイにシフトした。

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