国立公園に含まれ,土地利用のほとんどを森林が占める北海道東部の糠平ダム湖流域を対象に,平水時における河川水の溶存無機リン(DIP)濃度に対する地質の影響を明らかにすることを目的とした。流域河川14地点で成分別リン濃度を測定するとともに,DIP濃度と集水域の表層地質,土壌,植生及び地形を含む環境変量との関係を統計的に分析した。河川水のDIP濃度は火成岩に分類される第四紀の湖成堆積物の面積率と最も強い正の相関を示した。集水域に第四紀の湖成堆積物が分布する流域北部の河川でDIP濃度が有意に高く,その一部の河川では糠平ダム湖の環境基準値(全リンで0.01 mg L-1)を超過していた。また,河川水のDIP濃度はケイ酸態ケイ素(SiO2-Si)濃度と有意な正の相関を示し,岩石の風化の影響が示唆された。第四紀湖成堆積物の分布域では地下水を介したDIPの供給が河川水の高いDIP濃度に寄与している可能性が考えられた。